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第157話 兄と鬼

【斗織Side】 「大和兄さんの仰る通り、マナちゃ…真中先生は一也兄さんとお付き合いされています」 おかしくなったマナちゃんの代わりに答えると、兄さんの鋭い眼光がギラリとこちらを向いた。 まるでヤク……いや、この人は人命を救う立派なお医者様だ。 「斗織」 「はい」 「なんでテメェ敬語だ。普通に話せ」 「はい」 ……なんで丁寧にして怒られんだよ、訳わかんねェ! 「で、お前の用はなんだ?」 ゴクリと息を飲みこむ。 他では感じない、親に対するものとも違う感情─恐怖─が体を突き抜ける。 これは、幼少期に植え付けられたものだから、条件反射も仕様がない。 一也兄さんから与えられていたものは父性。優しく温かなものだった。 しかし大和兄さんから与えられたものは、恐怖と畏れ。 11も下の弟に拳骨、デコピン、絞め技、ジャイアントスイング。更にはアイアンクローで持ち上げられ、頭突きをかまされたことも一度や二度じゃない。 鬼や悪魔がいたとするならこの人のような生き物なのだろうと。何故自分の兄がマナちゃんではなく大和なのだろうと、運命を恨みに思ったものだ。 マナちゃんは、まあこんなで口は悪いし時々からかわれたりもするが、一也兄さんの所へ遊びに来ていた時はいつも機嫌が良く、ニコニコしていて優しかった。 幼い頃は、家に来ていると聞けば毎回纏わりついて遊んでくれとせがんだ。 高校生になった今でも、その眼差しには愛しさっつーか、可愛い弟分って思われてることが感じられて、こっちがこっ恥ずかしいくらいだ。 今ではもう遊んでくれとは思わないが、だから俺の中には未だに一也兄さんとマナちゃんが『兄』、大和兄さんは『鬼』とインプットされている。 だが、俺は誠意で押していくと決めたんだ。 恐怖を打ち砕き勝利を勝ち取れ、遼の為にも!! 膝の上の拳を強く握り、気合を入れ直す。 「今、付き合ってる奴がいて、俺は一生、そいつと一緒に居たいと思ってる」 「んだと? 青臭いガキが、生意気言いやがって」 「大和だって、芽衣ちゃんと付き合いだしたの高2だったろ」 マナちゃんは無事復活したらしい。 兄さんが一蹴しようとした途端に、間髪入れずにフォローを入れてくれた。 やっぱり、2人で来て正解だった。と言うか、マナちゃんに一緒に来てもらって……だな。 「だけど、そいつは子供を産むことが出来なくて、俺に跡取りは望めない。だから、将来的には養子をもらうなりして家元の座を継がせようと思ってる。  問題は、血の繋がりのない跡取りが、母さんに納得してもらえないだろうってことで……」 「その説得に、俺にも協力しろってことか?」 「いや。俺も、一也兄さんの所にも今後子供は産まれない。だからきっと、母さんの……父さんの期待も全部、大和兄さんの所の三兄弟に向かうと思うんだ。その事を、事を起こす前に、予め話しておきたかった。  ご迷惑をお掛けします」 にじり四寸ほど下がり、大和兄さんに向かい真のお辞儀をした。

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