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第158話 提案
【斗織Side】
大和兄さんは中々口を開こうとしない。
だが、相手が反応を返すまで待とうと思った。
ただ頭をひたすらに下げて、もしどんな罵りを受けたとしてもなんとか食い下がり、遼が安心して入ってこられるような環境を整える。
それは、遼との約束であり、何より優先して遂げなくてはならない、俺の戦いだ。
「あっ、それなんだけどさ~、大和」
だと言うのに、
───またお前か!!
マナちゃんの間延びした声が、シンと静まり返る和室に響いた。
「お袋さん、養子──他人の子供に継がせるって話になったら煩そうじゃん? しかも、男同士の両親ってさ、周りの反応が心配じゃない?」
「だろうな。……つか、斗織も男同士かよ……どうなってんだ、俺の兄弟は」
「だろうな、っつーなよ~。自分はとっとと可愛い嫁さん貰ってっからいいけどさ、俺たち世間の目から見たらホモの変態だよ? 好きな人と一緒になりたいだけなのに、酷くね? 世間」
「ああ、ヒデェな。10年以上もしつこくホモなだけなのにな」
「実際はホモじゃないからね!? 俺、一也さんだけだから! てか、一也さんから何処まで聞いてんのさ、大和~~っ」
「あ? なんも聞いてねェよ。見てりゃわかんだろが。まさか隠せてるつもりでいたのかよ? それにビックリだわ」
話は、…恐らく脱線しているのだろう。
つか、あの鬼に掴みかかって無事でいられるとか、マナちゃんスゲェ。
「ッ…いって!」
あ、殴られた。やっぱり無事じゃいられなかったか。
「で、何が言いたいんだテメェは」
「真衣ちゃんさ、斗織に懐いてるよね?」
頭を擦りながら、マナちゃんが一瞬前のおどけた表情を静かな、企むものへと変化させる。
「はぁ……、マジでか?」
兄さんが、寝癖だらけの髪を掻いた。
「マジだよ。これは俺からの提案。勿論、真衣ちゃんが興味を持ったらでいい。芽衣ちゃんも賛成してくれたらで。
上に2人男の子がいる。ここはそもそも院長の、お祖父さんの次男の家系だ。
一也さんは俺に、ここでは親の目も有って住み辛いだろうから、外で一緒に家を借りようって言ってくれてる。
大和はまだ二人一緒にいる姿を見ていないから分からないと思うけどさ、リョーくんのことを認めて貰えなかったとしたら、斗織はきっと、家を出るよ。
そんなことをすればリョーくんは悲しむ。それが分かっていても斗織は、彼といることを優先する。
そして俺も、いや、俺たちも、羽崎の家に逆らっても、それに協力する。弟たちを守りたいと思う。
だからさ───」
一言も挿まずに、兄さんはただマナちゃんの話を聞いている。
けれどその眼光は鋭く、内容をすべて認めている訳ではないと理解できる。
……てか、真衣の話? 俺が家出てく話?
いや、自分的には最後まで粘って家元相続放棄も匂わせて、母さんには無理矢理にも認めさせるつもりだけど。
「───大和も一緒に、斗織を守ってください」
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