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第159話 ボディーブロー
【斗織Side】
畳に額を付けて、深く深く頭を下げるマナちゃんの姿に思わず目を見開いた。
その正面には、難しい顔をした大和兄さん。
胡坐の膝に片肘を突き、その手で頭をガシガシと掻いている。
膝も座布団から浮いて、片膝立ちのようになっていて行儀が悪い。
昔から粗暴な兄さんのことを、母さんは多少なりとも怖がり、避けていたように思う。
だけどおっとりしていて上品な芽衣さんのことはお気に入りで、未だに、中学生の頃付き合っていた下品な人達とは違って芽衣さんは出来たお嫁さんだ、と褒めているのを聞く。
嫁さんに元カノの話なんかしてやんなよ、って話だが。
静まり返った室内。
時折、部屋の外から真衣と芽衣さんの声が遠く聞こえる。
もう3分……5分ほども経ったろうか。
時の流れが掴めなくて、正確な時間は分からない。
けれど全く頭を上げようとしないマナちゃんの隣で、俺も共に頭を下げ続けて………
「あーっ! わぁったわぁった」
分かった、と先に折れたのは、大和兄さんだった。
「ただし、俺の一存じゃ決めらんねェからな。芽衣に話して良いっつったら、真衣には取り敢えず習わせて……、で、本人がやりたいっつーんならお前の好きにしろ。それまでは保留だ。分かったな、斗織」
「えっ、俺がなに?」
マナちゃんと兄さんのやり取りだったはずなのに急に矛先──尖った視線を向けられ、聞き返せば強めに頭をボコッと殴られた。
「話の流れで理解しろ、このクソバカ! 真衣を家元にっつー話だったろーが!」
「はっ!? ──いいのか、兄さん!?」
「だからー……保留だっつってんだろが! このバカガキが!!」
家元に、と、その言葉に驚いて、気を抜いた一瞬だった。
「いだっ! イダダダ…ッ!!」
俺は腕を捻りあげられ、いつの間にか固め技の只中に飲み込まれていた。
「ヤッバ…、痛そ……」
口に手を当てて引き攣るマナちゃんに向けた「助けてくれ」の言葉も声にならない。
「にーたぁっ」
「あっ、こら、真衣っ!」
襖がカラッと開いて駆け込んでくる小さな子供の足音。
追い掛けてくる芽衣さんの声。
言っておくけどこれ、見えてないからな。
ああ…、気が遠くなる……医者に殺される………
「とーたん、にーたんとあそんでゅ?」
「ああ、遊んでるぞー」
「ぁいもあそぶーっ」
「おう、飛びついて来い、真衣 」
「あーいっ!」
「っ───ぐぇっ!!」
そして俺は、鬼の懐で鬼の娘のボディーブローを食らい、意識を手放したのだった。
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