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第164話 浮上

震えるスマホに、 ───もしかして斗織かも! そう期待して慌ててポケットから出して着信相手を確認した、けれど…… ディスプレイに映しだされた名前は、『お姉ちゃん』だった。 「……はい…」 お姉ちゃんは悪くない。悪くない、んだけど…。 ちょっと落ち込んだ気持ちで電話を受ける。 『遼ちゃん? 昨日はありがとね。今、平気?』 「うん……」 『……何かあった?』 少しの沈黙の後、心配そうに訊かれる。 「…あっ、ううん! 大丈夫! ちょっと眠いだけっ」 首を振って答えると、小さく笑う声が聞こえる。 『お泊りで夜更ししちゃった?』 「……うん。皆でね、DVD観たりしてた。あ、それからね、りぅがくんの家のお風呂、温泉なんだよ! 広くて気持ちよかったぁ」 『まあ、そうなの。素敵ね。その分だと、楽しかったみたいね、良かった』 「うん。楽しかったよ」 お姉ちゃんと話してて、ちょっと気分、浮上してきた。 『あ、ねえねえ、斗織くんって苗字、羽崎って言ってたよね?』 「ん? うん、鳥とかの羽に、高崎の崎で羽崎」 『ご両親のお仕事なんかは聞いてる?』 「んー?」 変なこと訊いてくるなあ、と思いつつ、お父さんはお祖父さんが院長を勤める大病院のお医者さんで、お母さんは茶道の家元なのだと答える。 そう言えば……、病院の名前までは聞いてなかったなぁ。 それも併せて伝えると、 『ん、大丈夫。ありがとう』 お姉ちゃんの用事はそれだけだったのか、他は世間話なんかも無く、別れの挨拶だけ交わして通話は切れた。 ……なんか、落ち着いた。 もう大丈夫かも。 お姉ちゃん、ありがとう…… スマホをおでこに当てて、心の中でお礼を言っていると、 ブブブ… スマホがまた震えて、おでこを小刻みに叩いてきた。 お姉ちゃん、言い忘れたことでもあったのかな? おでこを擦りながらスマホを見る。 すると、今度こそ大好きな恋人の名前がそこにあった。

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