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第165話 更に急浮上
ベンチで足を揺らしながら、斗織が来るのを待ちわびる。
『今から会えるか?』
少し弾んだ斗織の声に、俺の心は一気に急浮上。
ゲンキンなもので、さっきまでの落ち込んだ気持ちはすっかり消え去り、心は春の空のように優しく晴れ渡っていた。
買い物に来ているのだと告げれば、すぐに行くからそこで待ってろ、って。
一緒にお買い物してくれる? と訊けば、自分がカゴを持つから入口にいろって。
斗織はいつも、俺が欲しい言葉をくれるんだ。
昨日だって、欲しくないって言い張ってた、本当はすごく欲していた言葉を、俺にぶつけてくれた。
このスーパーは、うちと斗織の家のちょうど真ん中ら辺。
10分ぐらいで着くかな? 斗織の足ならそんなに掛からないかな?
ニヤけちゃいそうな口元を、目元を必死に引き締めて平静を装ってないと、変質者がいるって通報されちゃいそう。
タッタッタッ…と、駆け足の音が聞こえて、頬から両手を離した。
「遼、悪ィ…、っ、待たせたか?」
見慣れないスニーカーの足。
だけど見上げた先に、少し息を切らせた斗織の顔があった。
「ううんっ! 走ってきてくれたの? 斗織」
首を横に振れば、ニカッと笑って頭を撫でてくれる。
「お前、電話で何か変だったからな。なんかあっただろ」
「えっ、うそ…」
お姉ちゃんとの電話で気持ちが上がっだ後だったから、もう変じゃなかった筈なのに……。
勘が良いのか、俺の感情の機微にだけ敏感なのか、わざわざ腰を落として少し眉根を寄せた顔で覗き込んでくる。
「う……、と、それは後で!」
折角楽しい気分なのに、思い出して辛くなるの嫌だもん。
それより、
「斗織だって何かあっただろ。良い事?」
俺だって、斗織の感情の変化には敏感なんだから。
訊き返すと斗織も、「後でな」なんて機嫌の良い顔をして、俺のほっぺをツンと突付いた。
表情と言い動作と言い、やっぱり何か良い事が有ったんだ。
斗織は、カバンを持っていなかった。
お財布やなんかはポケットの中。
流石に2日連続で泊まりは親にも止められちゃうよね……って、ちょっと寂しくも思うけど。
でも、さっき別れたばっかりなのに、ほんの数時間でまた会いに来てくれたんだ。
やっぱり嬉しくて、カゴを持っていない方の斗織の手をぎゅっと握って歩いた。
開き直ってしまえば周りも案外気にしないもので、微笑ましげに見送ってくれる親子連れのお母さんだって居る。
重そうな買い物袋を自転車まで運んであげれば、おばあさんは「仲が良くていいわねぇ」と微笑み、お礼にとアメを幾つかくれた。
ほら、男同士だって世間はそんなに変な目で見てこないじゃん。
そう思ったところで、やっぱり彼女に言われた言葉が心を抉っていたことに嫌でも気付かされた。
だから俺はより強く、縋るみたいに斗織の手を握る。
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