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第170話 良いこと
【斗織Side】
啄むようなキスを繰り返していると、遼は可笑しそうにクスクスと笑う。
「なんだよ?」
何が面白いのかと訊ねれば、
「違うよぉ。しあわせでね、嬉しくって」
またクスクスと本当に嬉しそうに笑うから、俺はいとも簡単に煽られる訳で。
なのに、もっと深いやつをかましてやろうと顔を近付ければ、肩をトンと押し返された。
「今度は何だ?」
止められた腹いせにデコをピンと弾く。
「んっ、いた…」
もぉ、と見上げる表情すらエロいんだから、遼も既にすっかりソノ気だとは思うんだが。
擦ってるデコを撫でる代わりに唇でなぞると、それがまた嬉しかったようで、遼は尖らせた唇を緩くカーブさせた。
「あのね、斗織、なんか良いことあったんでしょ? やっぱりそれ、先に聞きたい」
「ああ、その事な」
目の前のご馳走に気を取られて、後で教えると言ったことをすっかり忘れていた。
牧原にもさっき男同士だの跡取り何だの言われてたし、安心させてやるのが先か。
「遼」
俺が身を起こせば、それに倣うように遼も体を起き上がらせる。
良いこと、と自分で言って朗報だと分かってる筈なのに、その表情は何故か固い。
「あのな…」
「ああっ、やっぱり後で聞く~っ!」
「なんでだよ」
両手を振り回して先を聞かないようにする遼に、思わず笑いがこみ上げた。
「朗報だっつってんだろ」
「でっ、でもっ、俺、大丈夫!?」
「何が?」
「えとっ、えとっ、…わかんないっ」
「はっ、なんだそれ」
訳の分かんねェ慌てっぷりに、笑いながら頭をぽんぽん撫でてやると、遼はなんとか落ち着こうと、はふー…はふー…と深呼吸を繰り返す。
どういう心理状況なんだろうな、コレは。
で、何故か俺に抱き着いて胸に顔をうずめてから、
「おねがいします」
布に籠もった声で先を促される。
その様子がヤバい可愛くて、背中に手を回して撫でてやりながら、俺は勿体ぶって口を開いた。
「跡取り問題、解決しそうだ」
「えっ、……跡取りって、斗織の子供!?」
「俺の子ってなんだよ」
見上げた顔がなんで泣きそうになってんのか。
今までの成り行きを踏まえたら、そこは養子がいいとこだろーが。
「うち、兄貴が2人居るっつったろ? 長男の一也兄さんは一度会ってるな」
「うん……」
無駄に不安げな色を含んだ返答は、今は無視で流しておく。
不安な意味が訳分かんねェ。
「で、下の大和兄さんがマナちゃんと同級で、医者やってんだけど、大分前に結婚してて、子供が3人いる。上が男2人で末っ子が女、真衣って1才児な」
「ん……」
「その1才児が俺に懐いてて、……まあ、さっきマナちゃんと大和兄さんに会いに行ったんだけど」
「えっ、ご挨拶に行ったの? 俺が一緒に行くって言ってたやつ?」
驚いたように視線が上がって、腕をぎゅっと握られた。
確かに、保健室で「鬼がキレる」って大和兄さんの話をした時、遼も一緒に行くって言ってたのは憶えてるが。
……あの後お前まだ、俺と3月で別れるとか言ってたじゃねェか。
チッ、と舌打ちが出そうになるが、すれば遼が傷付くだろうから既 で堪える。
代わりに、こっちも嘘じゃない、遼にとって心地よい方の理由を告げた。
「言っただろ。お前の居場所を作ってから迎えに行くって」
「斗織……っ」
ビンゴ。遼はガバリと俺に抱きつくと、「すきすきっ」と胸に頬ずりしてきた。
やっぱりこっちで正解だ。
その可愛さに、更に熱がズクンと集まった。
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