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第175話 守り番
「なあ、紫藤!おマメから聞いたんだろ?どう?来られそう?つか来るよな!」
唐突に背後から声を掛けられて、思わずビクッと肩を揺らした。
そのことに気付いたクラスメイトに、目が合うとニヒヒと笑われる。
茶髪に、いつもフード付きトレーナーの人。背は俺と同じかちょっと高いくらいで、人懐こいタイプ。
名前は確か、えぇと…… あっ、田中くん!
斗織の隣の席の人だ。
「その事ですが、大豆田君と紫藤君が参加するなら、僕もついていきますよ」
「はっ!? なんで嵯峨野が!?」
「今日は羽崎君に外せない用事があるので、2人分の守り番です」
「守り番て…! つか、男はもう人数オーバー…」
「男は、って……女の子もいるの?」
焦ってる田中くんに訊ねると、更にアワアワと忙しなくなる。
「いっ、いやぁ? 男だけだけども!」
「そうですか。どうせ女子生徒を誘ってみたけど断られた、と言ったところでしょう。当日ドタキャンですか?」
眼鏡のブリッジをクイッて、級長はお得意のカッコイイ決めポーズ。
「あー、まあ……、だから男だけで楽しもうかって、なあ!」
そして目が泳いでる田中くんから鋭い視線を逸らすと、俺の右側の席、中山に目を合わせた。
「中山君、まだ帰っていなかったんですか?」
「いやっ、皆 羽崎待ってんだろ!? 俺も一緒に帰んだからね?!」
からかわれてるだけなのに、全力で返す中山が面白い。
「では中山君、君も強制参加です」
「え? なにに?」
耳につけてたイヤホンを外して、中山は眉を顰める。
「今日はこれから、田中君たちとクリスマスパーティです。大豆田君と紫藤君が誘われているのですが、羽崎君が行けないので片端は君の管轄になります」
「管轄って何!?」
「あっ、中山くんも行くのっ?」
いつの間に近くに来ていたのか、高原くんの小さな声が傍で聞こえた。
チャラ眼鏡(リューガくんがそう呼んでた)の山田くんと、イヤーカフの佐藤くん(前の席順で俺の後ろにいた人)に両腕を掴まれて、一緒に移動して来たって言うよりは、連行されてきたみたいに見える。
誘拐犯たちに攫われてきたって言うか。
高原くんの質問に中山が、頭を掻きながら、「んー、なんかそうみたい」って答えてる。
「えっ、つか中山も来んの? 誘ってねーんだけど」
嫌だって訳じゃなくて、多分純粋に驚いたんだろう。
「僕と中山君の参加を認めないのなら、大豆田君たちも行かせませんよ」
答えたのは級長だ。
「えっ、オレふつーに行くけど」
目を丸めたリューガくんの顔の前に、人差し指を立てて、メッ!って言ってる。
級長ママ。
「いや、だってさ、場所もそんな広くねーし、俺らが誘ってんの、おマメと紫藤と高原だけ…」
「遼を何に誘ってるって?」
頭の上にズシッと重みを感じた。
「ん~っ、斗織~っ」
文句を言うと、すぐに腕と顎とを退けてくれた。
かと思えば突然持ち上げられて、俺の椅子に座った斗織の膝に下ろされる。
だっこですか、そうですか……。
嬉しいです。
「んで? 田中山田佐藤」
3人の名前をまとめて呼ぶと、斗織の発する空気が急に硬いものになった。
「遼をどうしようって?」
振り返って顔を見ようとすれば、両ほっぺを挟まれて前に向き直させられる。
だめだめ、そんな強く押さえちゃ! ブサイクになっちゃう。
その後、田中くんたちから説明を聞いた斗織は、級長の申し出通り2人の参加を条件に俺に行ってもいいと言って。
俺は条件の意味が良く分からなかったけれど、クラスメイトとパーティなんて小学生ぶりだし! と結構ワクワクしながら、リューガくんたちと駅で待ち合わせて、4人で会場であるお店へと向かったのだった。
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