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第184話 桃源郷
内部の様子を確認した途端、斗織は眉を顰め、何だコレ…、と一言吐き出した。
「早かったですね、羽崎君」
「今日は今年最後のお教室だったから1時間早く開始で……」
「ははっ、なんで袴のまんま来てんだよ、トオル~。それ、外で目立っただろ」
「着替える時間も惜しんだんだよ。──いや、それよりもお前ら、ソレなんなんだよ?!」
ソレってどれだろう?
思わずリューガくんと目を合わせて首を傾げる。
女装させられてること? 空いてる席があるのに窮屈に膝に座ってること?
でも、これが一番良い席順だったんだもんなぁ。
斗織は級長たちの座るソファの後ろを通ると、佐藤くんが1人座る2人掛けソファーの傍らに立った。
「佐藤、悪ィ、そこ遼と座りてェから移動してもらっていいか?」
それと会費、1500円だっけ? と財布を取り出そうとしてる斗織に、思わずムカプン。
なんでそうなんの!? って怒りを込めて、ギッ! と睨みつけた。
「やだっ、違うだろ。斗織はそこの間の席に座んだもん、ばか」
「お前……、なんだ、いきなり馬鹿って…」
ぐっと腕を引っ張ると、しょうがねぇなって感じにそこに座ってくれたけど。
俺の意図が分からない、おいでってしてくれない両手にむーんとなって、自ら腕を広げさせる。
「遼、財布しまわせろ」
「いたっ」
苦笑混じりの斗織に、おでこをコツンと叩かれた。
「りょーくん……」
控えめな声で呼ばれてそっちを向けば、手招きされて屈んだ頭を、ひろたんがヨシヨシって撫でてくれる。
「痛かった?」
「ううん、痛くないよ。大丈夫。ありがとう」
「ううん。痛くないなら…良かった」
「……ここは桃源郷か、極楽か……」
な、なんか中山が、おかしなこと言ってる……。
「いや、お嬢様女子校だ…!」
佐藤くん、目付きがヤバい!
「紫藤、パンツは男モンなんだな…」
田中くんのガッカリした声。
───って!
「パンツ見られた!!」
「男同士なんだから体育の着替えの時なんかもフツーに見てんだろ~」
何でも無い風にケラケラ笑われるけど。
「ちがう! スカートの中ってのが嫌なんだよっ」
丈はミニで、白いニーハイタイツまでの間は生脚で。
部屋着でも露出度はそう変わんないかもしれないけど、あれは家の中限定で、家族か斗織、配達の人ぐらいにしか見られないし。
ズボンで下は塞がってるから、パンツなんてチラリとも見えない。
だけどこれはスカートだから、なんかピラピラしてて………だからもう、なんか違うじゃんっ!!
「田中くんのえっちー!」
熱い顔で文句を言うと、
「うわっ…、ヤバイかわいー……」
なんか逆に喜ばれた…!?
すかさずスカートの裾を下にグイグイ引っ張るリューガくんとひろたん。
自分たちだけパンチラから守ろうとは、なんて卑怯な!
「遼。口、ムーッてなってんぞ」
斗織に声を掛けられて、摘まれちゃう! と慌てて横にムギューと広げれば、斗織は口に向けて伸ばしていた手を一旦止めて、さっき俺がさせたみたいに両腕を開いて「ほら」と言った。
「座るんだろ?」
「……うん! 座る!」
なんだよぉ、分かってたなら意地悪しないで最初っから迎え入れろよ~。
膝に座って背中を預けると、着物の袖が腰の前に回ってくる。
う~~、やっぱり俺のカレシかっこいいー。
ドキドキするのに安心する。
「ひぅっ……!?」
太股撫でられた。安心できない。
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