185 / 418
第185話 チョコレートケーキ
「ケーキ切れたよ~」
戻ってきた山田くんの両手には、チョコケーキといちごのショートケーキ、2種類のお皿が乗せられていた。
2ホールもあるなんて聞いてなかったから、更にテンションが上がる。
友達とパーティー。斗織が来てくれた。ケーキが2種類。だなんて、ハイテンションにならない方がおかしい。
キョロと見回せば、リューガくんとひろたんもキラキラと瞳を輝かせていた。
2人とも可愛いっ。
「つか、羽崎途中参戦? 残った残飯片付けられちゃう系?」
「山ちゃーん、残ったメシで残飯だから、残った残飯ってヘンよー?」
俺もソレ思ったけど……。
言葉に出してツッコんだ田中くんは、ケーキのお皿を置いた山田くんにまた蹴っ飛ばされてた。
「ま、かき集めりゃ一人分以上にはなんじゃねーの? あ、羽崎から会費貰ったから」
「あ、どーもでぃ~っす」
「いや、メシは食っていいなら貰うけどさ、……それよりコイツら、なんでこんななってんの?」
ヒグッ…と固まる3人。
目がそろ~っと逸らされていく。
……そうか。この人達、俺に女装なんてさせたら斗織に怒られるって、わかっててやらせた訳な。
「コイツらなー、約束してた女の子たちにドタキャンされて、代わりにうちのTOP3誘ったんだってさ」
「TOP3?」
答えない3人の代わりに中山が告げれば、斗織の眉間の皺が更に深まる気配。
「良い目はしていると思いますよ。うちのクラス内で女装の似合うTOP3だそうです」
そりゃあ、級長も言ってたもんねっ!
クラスの三大受け要員って!!
級長の言葉に はぁ…、と息を吐き出していると、斗織は俺の腰に回した手に力を込めて、ソファーに深く座り直した。
「まあいっか。こんだけ似合ってんなら、お前ら、作戦大成功だろ」
「そんな俺らをガキみたいに!」
「じゃあ、大人の事情で着せやがったのか? 遼に?」
「ひっ、ヒィッ…! い、悪戯大成功で~す…」
斗織の妙な迫力に、山田くんと田中くんがブルブル震えてる。
でも正直、俺たちもうこの格好、慣れちゃったしなぁ…。
それより、気になってるのは……
ひろたんもリューガくんも、どっちから食べようかなってケーキに釘付けだ。
勿論俺も、ご飯ものでお腹いっぱいにしないで空けておいたケーキ分のお腹、早く埋めたくてウズウズしてるんだけどなぁ。
そんな俺達の様子に気付いてくれたのは、斗織の視線から外れていた佐藤くんだった。
「食う?」
ジャラリ、とアクセサリーの音をさせながら、お皿にチョコケーキの方を取り分けてくれる。
「お嬢様方からどうぞ」
そう言って次々と渡してくれるから、ひろたんから俺へ、俺からリューガくんへ回して、それぞれの手にお皿が揃う。
先に食べていいのかな? チラリと振り返ると、「先貰っとけ」と頭をぽん、と撫でられた。
「うん! いただきまーす」
お皿を持ってて両手を合わせられないから、お辞儀で“いただきます”。
一口切って口へ運ぶと、それはとてもしっとりとしたチョコレートケーキで、口の中に洋酒の香りがブワリと広がった。
ふわり、じゃなくて、ブワリ。
結構強いみたいだけど、大丈夫かな? 俺、お酒飲んだことないんだよね。二十歳になってないから当然なんだけど。
味は……大丈夫。なんのお酒かわからないけど、苦いけど嫌な苦味じゃなくて、深い甘さのチョコレートとも相性が良い。
フッと鼻から抜けるお酒の香りに、ちょっとクラっとする。
多分俺、あんまりお酒強くないのかも。
完食しない方が良いかもしれない。
でも、…美味しいなぁ……。
「つか、マメが女装似合うとかビックリだわ。ちっけーからか?」
「ちっけー言うな!」
「それなんだけどさぁ、前やっぱここで遊んでた時、アネキ達が突撃してきてメイクさせろって散々俺ら遊ばれて、したらおマメだけ似合っちゃって!」
「紫藤と高原はホント、予想通り、ご馳走様です! つーかね」
ご馳走様ってなんだよ…。
「後で写真とかいーっすかねぇ、ご主人様」
「良い訳ねェだろ。マメと高原は知んねェけど」
グイッと胸元を腕で引き寄せられた。
もーっ、斗織乱暴だし。ケーキ落としちゃったらどうすんだよ。
まあ、ぜんぶ食べ終わった後で良かったけど。
ともだちにシェアしよう!

