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第185話 チョコレートケーキ

「ケーキ切れたよ~」 戻ってきた山田くんの両手には、チョコケーキといちごのショートケーキ、2種類のお皿が乗せられていた。 2ホールもあるなんて聞いてなかったから、更にテンションが上がる。 友達とパーティー。斗織が来てくれた。ケーキが2種類。だなんて、ハイテンションにならない方がおかしい。 キョロと見回せば、リューガくんとひろたんもキラキラと瞳を輝かせていた。 2人とも可愛いっ。 「つか、羽崎途中参戦? 残った残飯片付けられちゃう系?」 「山ちゃーん、残ったメシで残飯だから、残った残飯ってヘンよー?」 俺もソレ思ったけど……。 言葉に出してツッコんだ田中くんは、ケーキのお皿を置いた山田くんにまた蹴っ飛ばされてた。 「ま、かき集めりゃ一人分以上にはなんじゃねーの? あ、羽崎から会費貰ったから」 「あ、どーもでぃ~っす」 「いや、メシは食っていいなら貰うけどさ、……それよりコイツら、なんでこんななってんの?」 ヒグッ…と固まる3人。 目がそろ~っと逸らされていく。 ……そうか。この人達、俺に女装なんてさせたら斗織に怒られるって、わかっててやらせた訳な。 「コイツらなー、約束してた女の子たちにドタキャンされて、代わりにうちのTOP3誘ったんだってさ」 「TOP3?」 答えない3人の代わりに中山が告げれば、斗織の眉間の皺が更に深まる気配。 「良い目はしていると思いますよ。うちのクラス内で女装の似合うTOP3だそうです」 そりゃあ、級長も言ってたもんねっ! クラスの三大受け要員って!! 級長の言葉に はぁ…、と息を吐き出していると、斗織は俺の腰に回した手に力を込めて、ソファーに深く座り直した。 「まあいっか。こんだけ似合ってんなら、お前ら、作戦大成功だろ」 「そんな俺らをガキみたいに!」 「じゃあ、大人の事情で着せやがったのか? 遼に?」 「ひっ、ヒィッ…! い、悪戯大成功で~す…」 斗織の妙な迫力に、山田くんと田中くんがブルブル震えてる。 でも正直、俺たちもうこの格好、慣れちゃったしなぁ…。 それより、気になってるのは…… ひろたんもリューガくんも、どっちから食べようかなってケーキに釘付けだ。 勿論俺も、ご飯ものでお腹いっぱいにしないで空けておいたケーキ分のお腹、早く埋めたくてウズウズしてるんだけどなぁ。 そんな俺達の様子に気付いてくれたのは、斗織の視線から外れていた佐藤くんだった。 「食う?」 ジャラリ、とアクセサリーの音をさせながら、お皿にチョコケーキの方を取り分けてくれる。 「お嬢様方からどうぞ」 そう言って次々と渡してくれるから、ひろたんから俺へ、俺からリューガくんへ回して、それぞれの手にお皿が揃う。 先に食べていいのかな? チラリと振り返ると、「先貰っとけ」と頭をぽん、と撫でられた。 「うん! いただきまーす」 お皿を持ってて両手を合わせられないから、お辞儀で“いただきます”。 一口切って口へ運ぶと、それはとてもしっとりとしたチョコレートケーキで、口の中に洋酒の香りがブワリと広がった。 ふわり、じゃなくて、ブワリ。 結構強いみたいだけど、大丈夫かな? 俺、お酒飲んだことないんだよね。二十歳になってないから当然なんだけど。 味は……大丈夫。なんのお酒かわからないけど、苦いけど嫌な苦味じゃなくて、深い甘さのチョコレートとも相性が良い。 フッと鼻から抜けるお酒の香りに、ちょっとクラっとする。 多分俺、あんまりお酒強くないのかも。 完食しない方が良いかもしれない。 でも、…美味しいなぁ……。 「つか、マメが女装似合うとかビックリだわ。ちっけーからか?」 「ちっけー言うな!」 「それなんだけどさぁ、前やっぱここで遊んでた時、アネキ達が突撃してきてメイクさせろって散々俺ら遊ばれて、したらおマメだけ似合っちゃって!」 「紫藤と高原はホント、予想通り、ご馳走様です! つーかね」 ご馳走様ってなんだよ…。 「後で写真とかいーっすかねぇ、ご主人様」 「良い訳ねェだろ。マメと高原は知んねェけど」 グイッと胸元を腕で引き寄せられた。 もーっ、斗織乱暴だし。ケーキ落としちゃったらどうすんだよ。 まあ、ぜんぶ食べ終わった後で良かったけど。

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