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第188話 中山、アウト!
【中山Side】
「なあ、佐藤、悪いけど高原のチョコケーキ、そっちのいちごのに変えてやってくんない?」
「ん、いいけど。でも、もうそっちも食い終わってるみたいだぜ」
言われて見ると、確かに高原は、もう空っぽの紙皿を大事に抱えていただけらしい。
酔っぱらいの訳分かんねー行動だ。
うちの陽気な酔っ払い で慣れてるから、まあ、対処出来る範囲だろう。
うちの母親は酒が好きだけど、そう強い方でもないらしい。
一週間に一度ぐらい、親父の居ない夜に、チューハイやカクテルの350cc缶を2本とグラスとを用意して、バラエティ番組とチョコやチーズを肴にひとり酒盛りを始める。
暫くすると、「あ、空っぽだ」と声が聞こえる。これが酔い初めの合図だ。
空にした方の缶持ち上げちゃあ「あ、空っぽだ」を何度も繰り返し、終いには何が可笑しいのか腹を抱えて笑い出す。
俺の背中をバシバシ叩いて大笑いするもんだから、堪ったもんじゃない。
仕方ないから最近は、叩かれる前に空になった缶をさっさと流しに持ってくようにしてる。自衛は大事だ。
「高原、皿テーブルに置こうな」
手から紙皿を取ってテーブルに置いてやる。
高原は自由になった手で、俺の腕を掴んできた。
こっちの酔っ払いはメチャクチャ可愛いな!
「なんか飲むか?」
「ん~ん」
首を横に振って、90度回転。足をソファーの肘掛けの向こうに放り出すと、横だっこの形で俺の上に落ち着く。
酒が入って気持ち悪くなったのか……。その体勢のほうが楽なんだろうな、と背中を支えてやれば、高原はトロンと眠そうな顔を赤く染め、嬉しそうに えへへと笑った。
ドキーン───
いやいや、待て待て、なんだ今のドキッてのは。
お前は紫藤が好きな筈だろうが、中山悠成!!
「なかやまくん…?」
固まった俺を心配そうに呼ぶ声。
「…あ、悪い。どうした? 眠いか?」
訊けば、丸く大きな濡れた瞳が俺の目を捉えて。
「……っ」
首筋に触れられた感触。首に回された手に力が入って、近づいてくる甘い口元。
酔ってるから力入んないだろうな、なんて、なんで俺は背中に回した手で、高原の身体を手伝うように引き寄せてるんだろうか。
チョコレートと洋酒の匂いが、鼻をくすぐる。
唇に、潤んだグロスの上からチョコケーキに掛かってただろうココアパウダーが被さってる。
拭いてやんなきゃな…、なんてボーッと思って、舌で舐め取ればいいか? なんて………いやいや落ち着け俺、完全アウトだろ、そりゃ!
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