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第192話 愛の形
【中山Side】
俺は……多分、バイなんだろう。
昔は普通に女が好きだったけど、男同士の恋愛もおかしいとは思わない。
相手のことを良いと思えばどっちでもすぐに好きになる。惚れっぽいのは否めない。
落とした消しゴムを拾って渡した、そのお礼を言った笑顔が綺麗だったからってだけで柴藤に惚れたし、今だって、好きだってキスされた───それだけで高原が好きだと感じた。
だけど、さっきまで大好きだった筈の柴藤を見ても、今は普通に可愛いぐらいにしか思わない。
自分の腕の中の重みが、やたらと愛おしい。
惚れっぽいが、一度惚れたら一途で余所見をしないってのは、歴代彼女達(まあ2人しかいないが)が保証するところ。
「高原が可愛いのは、中学ん頃から知ってる。あの時は俺に彼女がいたから見えてなかったけど、今は誰もいない。別に問題ないだろ」
「無い訳あるか。テメェの気持ちはどうなんだよ」
「俺の気持ちは今、高原に向いてる。紫藤のことはもうなんとも思ってない」
「は……、いや、急過ぎんだろーが!」
「急でもなんでもだ!」
「やっ、待って! 折角の楽しいクリスマスパーティーでケンカしないで!」
不意に、俺たちの視線の間を掌が遮った。
正面からテーブルに乗り上げた山田が、俺たちを引き離そうと腕をグイッと押してきた。
「ケンカはしてねェ。遼が寝てんだろーが、押してくんな」
「山田、高原が寝辛くなるから」
高原の位置がずれて文句を言えば、隣で羽崎も柴藤が寝易いように抱き直している。
「つかさー、羽崎」
山田の足を引っ張りながら、田中が羽崎だけじゃなく俺たちを見て、言う。
「こっちから見てっとさぁ、2人同じように柴藤と高原抱いてっよ? それってさぁ、同じように大切にしてるってことじゃねーの?」
「は?」
羽崎が俺を見て、俺に抱かれた高原を見て、もう一度目線を上げると心底嫌そうに眉を顰めた。
「こいつが俺と同じだけのもん持ってるとか有り得ねェし」
「……っんと、ヤなヤツだなあ、テメーは」
「つかお前ら、ただの女好きだろ? 引かねェの?」
って、もうこっち無視とか!!
ほんとコイツとは気ぃ合わねえ!
俺の怒りは宙ぶらりんのまま、「ああ」と1人頷いた佐藤に視線をやる。
「さっきな…、柴藤からお前らの話聞いたら、バカにするヤツのがバカに思えた。から、俺は、そう言う形もあるってことで、納得した」
シルバージャラジャラ、ロッカー気取りで気ぃ合わねーな、って思ってたけど、実は佐藤、イイ奴だったんだな!!
「本人同士が思い合っててしあわせだってんなら、他人が文句言う筋合いでもないじゃん?」
田中も軽くて気ぃ合わねーって思ってたけど、イイ奴!
「正直、柴藤と羽崎見てても、高原が中山に抱き付いてんの見ても、気持ち悪いって思わなかったんだよねぇ。エロくてヤバかったぐらいだし~?」
山田!チャラ眼鏡で…以下略。
「ま、女装の所為かもしんないけどね~」
前言撤回。山田はやっぱりチャラ眼鏡。
「なー、お前ら話ばっかで食わねーんだったら、オレ、ケーキ貰ってもいいよな? 山田、そのチョコケーキ、オレに寄越せ」
「っておマメちゃんは全然酔ってねーし~!」
突然響いた、フォークをケーキに向けた大豆田の声で、その場の空気がパッと変わった。
「大豆田君、僕のケーキを半分食べますか?」
「ん? 級長、甘いの好きじゃねーの?」
「いえ、好きですよ」
「じゃ、だめーっ」
「ダメって、俺も甘いもん好きだからね? おマメちゃ~ん」
「山田はいーんだ、キモいから」
「キモいって…!!」
「ふはっ、マジでショック受けてんの」
大豆田の笑いで、険悪だった俺たちの空気も一蹴されたみたいで、俺もついつられて笑ってしまっていた。
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