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第195話 もう恋なんてしない

「いや~、それにしても、羽崎も中山も果報者だよね~。紫藤のちゅっちゅっ、アレはヤバかったぁ」 「えっ!?」 なにそれ!? 山田くんの言うことに、俺はまったく覚えが無い。 「酔って俺に抱きついてキスしてきたんだよ。お前、ホント俺の和装好きな」 斗織が苦笑混じりに教えてくれた。 ……けど! 酔ってってなに!? 俺、お酒なんて飲んでない! それに─── 「お見苦しいものを……すみません………」 頭を深々と下げると、田中くん達3人は、「いえいえ」「可愛かったからオッケーっしょ」「ご馳走様でした」と口々に快く許してくれた。 ありがたいけど、なんだか複雑……。 「ん~……。でも、中山とひろたんが付き合うことになるなんて、びっくり」 ジュースをひとくち。 寝起きのまだ回らない頭で、明後日のパーティーも中山と一緒に来ないかなぁ、なんてボーっと考えてると、 「───そんなっ…!」 右側から悲壮な声が聞こえてきた。 見ると、ひろたんが真っ青な顔をしてブルブルと首を横に振っている。 「もしかして、酔ったうえでの気の迷いでしたか?」 級長の問い掛けに、固まったままの中山の、表情だけが、ガン──と擬音を感じさせるものに変わった。 ひろたんは目に涙を溜めて、もう一度首を横に振る。 「僕が、そんなのっ、……おこがましいですっ」 「おこがましいって、高原、さっき中山に抱き着いて好きっつって、自分からちゅ~ってしてたじゃん」 「え…………ええぇっ?!」 あ、ひろたん、頭抱え込んじゃった。 どうにかしてやれと中山を見やれば、そっちもそっちで何かボソボソと呟いて何処か遠くを見てる。 「…もう恋なんてしない……」 …………。 もーーっ、バカか!! 「ひろたん、未成年がお酒飲んじゃうのはダメだけど、起きちゃったことはもう仕様がないよ。嫌なら、酔ってたからの気の迷いで無かったことにしちゃえば良いんだよ、ね?」 「ぼく、お酒飲んでない……」 うん、……そうなんだよ。 やっぱりひろたんもそうなんだ。 お酒なんて、俺だって飲んだ覚えない。 「なのに酔っ払っちゃったって、どういうこと…?」 「リョーちんとひろたん、チョコケーキに入ってたラム酒で酔っちゃったんだよ」 ……そうか! 謎はすべて解けた!! 「りぅがくんは酔わなかったの?」 「んー、あんぐらいならオレ平気~。皆食ったけど、酔っ払って寝ちったの、リョーちんとひろたんだけだったもんな?」 「アルコールは結構効いていましたけどね。恐らく、君たちはお酒に弱い体質なのでしょう」 「遼、お前成人しても、俺がいねェとこで酒飲むんじゃねェぞ」 「えー……」 俺、お酒弱いんだ……。なんだかショック。 んでも、ひろたんがお酒弱いのは納得の可愛さ! 「ねえ、中山」 「…もう恋なんてしない……」 まだなんか言ってる。 目の前でひろたんが顔面蒼白になってるっていうのに、頼りない奴! 「ひろたん、ショートケーキ食べる? いちご美味しいよ」 俺の分を取り分けてもう一個、残ってるのは同じく寝ちゃったひろたんの分だと思って訊ねれば、プルプルと首を振られる。 「じゃあ、貰って帰る?」 また首を横にフルフル。 「中山、好きだと思うよ、ひろたんのこと」 「っ……」 「付き合わないの?」 「~~~っ」 とんでもない、なのか、付き合いたいなのか、ひろたんは首を横に振りっぱなしで、目が回りそう。 寧ろもう回ってしまってそうだ。

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