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第196話 脳筋スポーツマン
大体さぁ……、ずっと「もう恋なんてしない」とかブツブツ言ってるこの男!
「男なんだからもっとドンと構えてろよっ」
頭をボカって叩けば、やっと意識を現実に戻したようで、重たい息をはぁ、と吐き出した。
もう。斗織なら、こういう時だってもっと落ち着いてて頼り甲斐あるぞ。
中山のヘタレ。
「高原君。中山君を好きだと言ったのは、酔ったうえでの戯れだったんですか?」
心配そうな瞳のリューガくんの頭を撫でながら、級長が優しい声音で訊ねる。
「ううんっ!……ぼく、中学の頃からずっと、中山くんに憧れてて…」
「それは、恋愛としての好きとは違う?」
「違っ……いま…せん…。でも、僕、男だから、そう言うのダメだ、って…思って…」
俺と斗織、そう云うスタートぶっちぎって始めちゃったからなぁ……。
片想い中のそう言うジレンマ、なんか新鮮。
「中山くん、中学の時も1年生の時も女の子と付き合ってたから、男なんて好きにならないと思うし、きっと今抱っこしてくれてるのも、僕が女装してるからで…」
段々ちっちゃくなっていく声。俯いていく顔。
中山めー。パンチしたい!
「えっ、中山ずっとリョーち…」
「大豆田君、メッです」
「…あっ、すんませーん……」
「え? 俺がなに?」
「あー……、なんでもないっスー……」
俺の名前が出かけた気がしたから訊いたのに、リューガくんはそれには答えず、ヘラッて笑うと軽く会釈する。
なんで急に敬語なんだろう。
変なリューガくん。
「じゃあさ、高原、服着替えて、メイクも落としてきて」
漸く、だ。漸く此処に来て、中山が動いた。
「まるっきり男に戻った高原のこと、抱き締めてキスできたら、俺の勝ちだ!」
───勝ち負けの問題か!!
脳筋スポーツマンが!!
再びカーテンを引いて、3人一緒に着替えを済ませる。
別に男しかいないし、その場で着替えても良かったんだけど、ワンピースやスカートを脱ぐ行為ってのがどうにも恥ずかしくて……。
それに、なんだか男共(俺たちだって男なんだけど)からいやらしい目を向けられないとは断言できなかった、と言うか。
まあ、さっきもお姉さんたちの前で「恥ずかしくないよー」って公開着替えさせられたし、今更なのかもだけど。
でも斗織も、見えないトコで着替えて来い、って。
山田くんのお姉さんが置いていってくれたメイク落としでメイクを取って、化粧水でバシャバシャ肌を潤す。
「メイク用品とクレンジングってのは肌傷めるらしいからなー」って、リューガくん。
マスカラは落ち辛いからアイメイクリムーバー使ってな、と経験者ならではの発言。
これも使えよ、ってチューブ式のリップトリートメントを渡された。
いちごの匂いがするけど、透明だから男が使ってもいいのかな?
指に移してぬりぬり。柔らかくてすごく潤う感じ。
変じゃないかな? って鏡を見れば、
……うっ、プルンってしてる。男のくせに、唇ぷるんって……
ピンで止めた前髪をおろして、ウィッグで押さえられて潰れちゃった髪の毛もふわりと整えて、なんとか最初の状態まで戻った。
ううん、もしかしたら最初よりも肌プリプリかも。
いつもより触り心地いいな。斗織、触ったら気持ちいいって思ってくれるかな…?
……買おうかな、化粧水。
リューガくんは整えた髪がいつものようにツンツンしてなくて、意外と長かった前髪が普段よりも更に幼く見せてる。
元通りになったひろたんは、まだ蒼白い顔を俯かせて握った拳をプルプル震わせてた。
「緊張する?」
訊けば、心細そうな瞳で、うんと頷く。
「僕、りょーくんみたいに綺麗じゃないし、りゅーがくんみたいに可愛くないし」
「俺綺麗じゃないし!」
「オレ可愛くねーよ!」
「えっ、りぅがくんは可愛いでしょ?」
「リョーちんだってキレーだろ。つか、」
「「ひろたんはちょー可愛い!!」」
揃ったセリフに、女装も解いた後なのに何やってんだろうね、って3人、顔を見合わせて笑った。
「遼、終わったんならこっち来い」
待ちくたびれたのか、斗織が声を掛けてくる。
それぞれコートを手に持って、リューガくんがカーテンを開けてくれる。
「おおっ!」
……おかしいな。女装から男に戻ったのに、どうしてあっちの3人からどよめきが起こる……。
「えっ、私服でも可愛いって、紫藤と高原、奇跡の人?」
奇跡の人?
確かに、ひろたんの私服見た時、オフタートルの白いニットや、チェックのパンツ、似合ってて可愛いなぁって思ったけど。
それ言うなら、リューガくんの赤い大きめの、首のトコ少し長くてくしゅってなってるトレーナーも可愛い。
萌え袖から出た指先の爪が桜貝みたいに丸くて可愛い。
なんかもう、フードのとこから垂れてる紐すら可愛く見える。
対して、俺のは別にふつーに、首広シャツにロングのフード付きニットパーカー合わせてるだけだもん。
お姉ちゃんが選んでくれたから、裾が燕尾服みたいにWになってる変わったデザインの服だけど、これってフツーに男物の服でしょ?(本人は気付いていませんが、遼の手持ちの服は主にユニセックスです。)
可愛いの、ラベンダー色だってトコだけじゃん。
「遼、食いかけのケーキ、さっさと食っちまえ」
「はぁーい」
膝をポンと叩くから、斗織の上に座って残ったケーキを頬張る。
スポンジしっとりふわふわ。
ホントは来るハズだった女の子のために選んだんだろうなぁ、これ。
中はいちごの他にも黄桃やりんごの角切り、これはメロン? 色々入ってて贅沢な感じ。
「ふふっ、おいし」
思わず笑っちゃえば、
「美味いか。よかったな」
頭をよしよし、撫でられた。
やっぱり、ウィッグなんて被ってない、サラの頭を撫でられた方が気持ちいい。
「いちご食べる?」
口に咥えて尖った方を差し出せば、おでこをコツって叩かれた。
「ばーか。自分で食えよ」
こんぐらいイチャつけば、中山も動きやすいかなって、一応空気作りのつもり。
見慣れてない3人はポカンとしちゃってるけど、中山は慣れちゃってるもんね。(ごめん…)
……でも、それとは別に、級長…、何気なく写真を撮るのはやめてもらえますか…。
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