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第198話 目の毒
「───っしゃー!!」
ガッツポーズでしゃがみ込んで、全身で喜びを表現するサッカー部。
その姿を見た俺とリューガくんも、顔を見合わせて、
「「やったー!」」
手をバチーンと合わせて喜び合った。
「よかったね、ひろたんっ」
「なっ、なーっ。よかったなあ!」
自分の事のように笑顔になるリューガくんの背後では、級長が今か今かとスマホのカメラを構えてる。
……あ、違う。あれ動画だ。ずっと動画で撮影してる……!!
そんなこととはつゆ知らず、目の前のひろたんでいっぱいの中山は、その細い体を抱き寄せて───
ん……?
目の前が突然真っ暗になった。
斗織の手が、俺の視界を塞いでる。
「斗織、見えないーっ」
「お前は見んな。目の毒」
「目の毒ってなにーっ!」
「中山、アイツスゲーがっつくから」
別に、がっつくからなんだってんだよー!
俺だって、ひろたんの幸せそうなトコ見たいっつーの!
どうしても離さない斗織に、自由になるのを諦めると、その場がやけに静まり返っていることに気付かされた。
皆、真剣に見過ぎ。……ずるい。
だけどそんな中、僅かに漏れ聞こえる声。
「んッ…、ん、は、ぁん……んんぅ…っ」
………ほんとだ。
絶対ひろたん初ちゅーなのに、中山のやつ、がっつき過ぎ!!
ちゅく…ちゅく…って聞こえてくる。
舌入れてる、あいつ、あの純粋なひろたんに舌入れてやがる!
「んぅ、…ぁっ、あっ、まっ……、ん、やぁ…っ」
「───って、そろそろやめて~っ!」
その卑猥な空気に活を入れたのは、意外や山田くんだった。
皆一斉に潜めていた息を吐き出し、静寂の時は終了。
なんか、ちょっと助かった感じ。
斗織も俺の目を塞いでた手を離してくれた。
「これ以上見てたら勃つ! 勃っちゃうでしょ~! お前はコート長いから良いけど、俺ショート丈! 帰り道で隠せねーから!」
でも、理由が卑猥。
ガクンと腰を抜かしたひろたんを、中山が支えて抱き上げた。
頑なにその席を守り続けた佐藤くんが田中くんと山田くんの間に移動して、2人掛けのソファーを譲る。
そこ、出来たら一番最初に譲って欲しかった席だけど……。
まあいいか。これも佐藤くんの優しさってコトで。
「中山、爽やかなフリしてムッツリスケベー」
真っ赤な顔で、はふはふと荒い息遣い。横たわるひろたんの頭を膝に乗せる中山に白い目を向けると、
「アイツ基本エロいぞ。この前の泊まりの時なんか…」
「わーっ! わーーっ!!」
斗織の申告は、中山にとって聞かれたくないものだったらしい。
「精力の強さもさながら、中山君の交渉テクはなかなかなものだと思いますよ。就職の際は営業職を選んだら如何ですか?」
「俺、サッカーで食ってくつもりなんだけど」
「…なるほど。…いいですね。Jリーガーの恋人は男の子」
級長のブレなさに、感服です。
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