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第207話 卑怯な二択

あわあわローズのバスタブの中、背中から抱き締めてくれてるだけで、斗織はそれ以上のことを俺にしようとはしてこなかった。 優しいなぁ。たまにはこう言うのもいいよね、なんて、温まった身体と一緒に心もぽかぽかしてくる。 女装をすることになった成り行きを話したり、俺が寝てる間に何があったのか聞いたり。 他愛ない話なのに凄く楽しくて、俺は息継ぎをするのも勿体無いと思うぐらい、はしゃいで沢山口を動かした。 「体はあったまったか?」 そろそろ出ようかな、と思った頃、タイミング良く斗織に訊かれた。 「うん」 「なら、ここで俺の方向いて立ってみ」 「えっ、やだ!」 意味の分からない要求に、即刻NOを唱える。 斗織は座って俺が立って、じゃ大事なトコが目の前に晒されちゃうじゃん…! 恥ずかしいからイヤだって言ってるのに、斗織は「いいから」って俺の身体を半転させる。 良くない良くない! 「で、俺の肩に両手ついて」 必死に隠してるその手で、掴まれなんて言ってくる。 鬼!悪魔! 「な……なんで?」 まだ手は離さないで訊ねれば、しれっとした顔で「解すから」と答える。 「解すって…!?」 「なに、お前後ろからのがいいのか?だったら尻こっちに向けて壁に両手つけろ」 「やっ、やだよ!どっちも丸見えになっちゃうじゃん!ベッドでしよ?ね?」 「別に、毎回丸見えになってんだし今更だろ」 そんな恥ずかしい事を言いながら、斗織はバスタブの外からボトルを取り、中身をトロトロと掌に出す。 ってそれ!ローションなんていつの間に持ち込んでたんだよ! 用意周到!! 「ここでやってった方がベッド汚れなくていいだろ」 「別に、汚れても洗うの俺だし…」 「遼、やんねェんなら、今日はやめるか?」 「……っ!?」 なんだその2択はーっ! なんだその卑怯な2択はーーっ!! 今夜はイチャイチャするんだもん!と約束した日から決めていた俺にとって、その2択は一瞬にして、後ろからか前からかの選択へとすり替わっていて……… 「………前からお願いします」 ギュッと目を瞑ることで恥ずかしいのを堪えると、斗織の言い付け通り、俺よりもずっと逞しいその両肩に手を乗せ、訪れるであろう快感へと胸を高鳴らせたのだった。

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