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第221話 素直じゃないけど
ふと見下ろしてきた斗織と目が合って、笑いかけると笑みを返してくれた。
だけど突然、顔を掌で覆い隠して、あーっ、と少し大きな声を出す。
耳が赤い。
咄嗟に笑い返したけど、気付いたら恥ずかしくなっちゃったんだろう。
他の人には笑いかけたりしないのに、俺の笑顔には釣られてくれる。
この人、ほんとに俺のこと好きだよなぁ…、ふふっ。
笑っていると、オデコに軽く拳を当てられた。
「いたいーっ」
「痛いほどは力入れてねェよ。バーカ」
「む、ばかってなんだよー」
「こんなイイオトコ残して4月に転校するヤツのことだよ」
「ぅ…、それは……」
さすがにそれを言われちゃうと、ぐうの音も出ない。
斗織もやっぱり、淋しいのかな?
……淋しいよね。一緒にいる時間、こんなに幸せだもん。
バイバイって別れる時、いっつもすごーく淋しいもん。
「斗織、…手、繋いであげる」
規則的に揺れていた左手を取る。
「お前が繋ぎたいだけだろ」
可愛くない返しをしてきたけれど、フッと口元を緩ませた。
嬉しいくせに、素直じゃない。
俺も、素直じゃない。
そうだよ、なんて答えてやらない。
「あっ、でも、男同士で繋いでたらマズい?変?」
「変じゃねェよ。制服じゃねェから、おっけ」
制服…の時も、時折繋いじゃってるけど……。
ま、いいっか。
「私服だと斗織、大学生に見えるもんねー」
大学生なら大人でも子供でもないから、表に出しても平気なのかも。
そう納得して頷くと、
「いや、ちげー。遼がどっちにも見えっから」
ニヤリ、と笑われる。
「高校生にも大学生にもってこと?」
「いや。男にも女にも。手繋いでたら女だと思われっだろ。お前の私服、ユニセックスだから丁度いい」
「はあっ!?んなわけないじゃん!いじわるっ」
「意地悪じゃねェよ。…可愛いっつってんの」
「………むぅ」
ちょっと照れくさそうにそんな風に言われたら、それ以上怒れないじゃないか。
口を尖らせてると、頭をくしゃくしゃって撫でてくる。
その触り方があんまりにも温かくって、俺は、
すっかり毒気も抜かれて、ついその顔を見上げて頬を緩めてしまったのだった。
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