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第229話 甘やかしたい

【斗織Side】 そう言やコイツは初めから、鞄は自分で持つし、家まで送らなくて構わないと言うし、今までにない、……なんつーか、…アレだ、つまり……天使か。 そういや、最初から天使だったか。 別れ話でめんどくせーと思ってる所に、上から降って来て助けてくれたんだっけ。 お陰様で女には殴られたけどな。 光を背に、キラキラ眩しくて、そのくせ俺のことを「そんな男」と揶揄した失礼なクラスメイト。 フワフワとして、拒絶はしないが誰も寄せ付けようとはしない。 そんな不思議な雰囲気のその男に声を掛けられたことで、俺の心は異様なまでに高揚したんだった。 誰のことも見ようとしないコイツの心を 俺の事だけで埋め尽くしたい─── その時の俺は、そう思っている時点で逆に囚われている事どころか、自分のそんな思いにすら気付いてなかったんだけどな。 そしてその時人生で初めて、俺の中に、独占欲ってヤツが芽生えたんだ。 そんなコイツだからこそ、甘やかしてやりたいし、喜ぶことならなんでもやってやりたい。 が、そんなだからやり過ぎると遠慮するし、コイツもコイツで俺に色々与えようとしてくる。 遼は男のくせに女子力が高くて、俺の出来ない家事が得意で、特に料理は相当美味い。 まるで店の料理、みたいのが出てくる訳じゃない。 一般的な家庭料理だ。 けど、それが俺の舌にドンピシャだってんだから、俺の嫁になる為に生まれてきたようなもんだろ。 はっきり言って、まあ遼が作ったっつースパイスが付いてのものかも知れないが、幼い頃からずっと食ってきたお手伝いのハナさんのメシより、遼のメシのが美味く感じる。 毎日それ食って生きてる聖一郎さんが、妬ましく思える程に。 ベンチに腰掛けてスケート靴の紐を結ぶ。 遼も俺の見様見真似で靴を懸命に履いてる。 どう見ても初めて来たんだろうし、わざとゆっくり履いて、手本を見せてやる。 遼は靴紐を結び終えると、やり切った感満載のいい笑顔を見せた。 頭を撫でると、「ちゃんと出来てる?」と上目遣いで訊いてくる。 「ああ。で、刃で手切ると危ねェから、これ着けとけ」 うちから持ってきた、中学生の頃使ってた手袋を渡してやると、礼を言いながら嬉しそうに手にはめる。 黒い手袋に包まれた手を緩みっぱなしの両頬に当て、「ふふっ、あったかぁい」と、辺りにぽわぽわと花を咲かせた。 ───抱いていいのか!? 今ここで、抱いていいんだよな!!? 当然それが容認される訳もなく、理性総動員で天を向こうと躍起になる本能を無理矢理抑え込む。 …のヤロウ。今夜は聖一郎さんも居んだぞ。どうしろってんだよ、俺の熱……。 取り敢えず荷物と靴、ロッカーに放り込んでくるか。 遼から離れて熱を冷まそう。

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