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第230話 運動音痴
【斗織Side】
「ぶにぶにするー」
気持ち悪~い、と楽しそうにゴム床の上をスケート靴で進む。
こわごわと片足を氷の上に踏み出すと、
「うわっ、うわっ、つるつる滑るっ」
その足だけをリンクで前後させて感触を確かめている。
初めて凍ってる湖を見た原始人みたいだな。
そんな事を思って笑っていると、意を決したように遼はもう片方の足を氷に乗せた。
けど、
「わっ、わわっ」
危ねェな、と見てる先で、足をバタつかせた遼は腕も大きく振り回し、体勢を後ろに大きく崩した。
「っと、大丈夫か?」
背後から脇を抱えて支えると、見上げてくるその目の端に涙が浮かぶ。
「こわいぃ」
可愛いな……、子供か!
「ほら、俺に掴まってでいいから、立ってみろ。踵つけて、つま先開いて」
「うん…」
「……遼…」
確かに、俺に掴まって、とは言ったけどな。
「手で掴まれ、両手で掴んでいいから」
腕で目一杯しがみついてたら、自分で立ってることになんねェだろが。
そう注意すれば、小さく呻り声を上げながら、こわごわ離れる。
こっちが離してやれなくなるからその目で見上げてくんのはやめろ。
「えっと、つま先をこぶし2つ分開いて、足をハの字に…」
「そりゃスキーのボーゲンだ」
思った以上にテンパってるらしい。
サッと周りを見渡して、見られていないことを確認してから頬に唇を押し当てた。
途端、遼は顔を真っ赤にさせて頬を押さえ、キョロキョロと辺りを窺うように首を振り回す。
「どっ、どういうことでしょうかっ!?」
声が裏返ってる。
「緊張解いてやろうと思ってな」
誰も見てないから安心しろ、と伝えれば、ホッとしたようで力を抜いて息を吐きだした。
「取り敢えず、一周してやろうか」
「えっ、むりっ!」
また一瞬で身体が強張る。
「踵つけて、逆ハの字な」
それを無視して、握ったままの手を引いて、後ろ向きに氷を蹴った。
「やっ、やあぁっ」
悲鳴を上げた遼は、留守になってた右手でも慌てて俺の手に縋り付いてくる。
やっぱりコイツ、運動は苦手なんだな。
スゲーへっぴり腰だ。
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