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第231話 テンプレ彼女と頑張れ理性

【斗織Side】 そう言や遼は、体育の時間に目立ってた(ためし)が無いし、一度はバレーボールをレシーブしようとして腹に思い切り食らってたのを見た。 パスされたバスケットボールを取られないように抱え込んで動けなくなってる姿を見たこともある。 あの時は、ボールをとろうとすればイヤイヤと首を振るもんだから可哀想になって誰も奪えずに、5秒ルールに引っかかって敵ボールになったんだっけか。 成績表もチラッと見たが、他は5段階の5なのに、体育と美術だけは3と4だった。 美術はまあ、授業態度と提出物を全部出してりゃ3、更にテストの点が高けりゃ+1で4ってとこだろう。 体育は、授業も出てるしテストも高得点。4もらってもいいトコだと思うが。 …積極性か?運動能力で減点1ってことも無いだろうしな。 つか……、可愛くて料理が上手い。甘いものが好きで、運動神経が悪い。 って、テンプレヒロインか。 「とおる、ハの字になってるぅ…」 まだ怖がってるが、半周もして慣れてきたのか、俺の足元に目をやって訴えてくる。 逆ハの字って教えた俺の足が、逆向きに開いているのが気になったんだろう。 「後ろ向きだからな。進む側の先を開くんだよ」 それより足元見てねェで前見てろ、と顎を上げさせると、まだ目の端には乾き切らない涙が滲んでいる。 「…悪ィ。つまんなかったか?」 まだ来たばっかりだが、怖いのを我慢させて俺だけ楽しむのも、と思って望めばすぐに帰ることをほのめかすと、 「ううんっ!俺がんばるっ!から、教えて!」 グッと握る手に力を込めた。 「カネのことなら気にすんなよ」 「ううん、それもあるけど」 怖いんだろう。頬を引きつらせながら、それでも頑張ってにこりと笑う。 「初めてのこと、斗織と出来ることが嬉しいんだ。俺、運動音痴で迷惑かけちゃうけど、面倒じゃなかったら、懲りずに教えて欲しいです。早く滑れるように頑張るから」 「……無理、しなくていい」 「っ……、ムリじゃないよ!俺、ほんとにっ」 「頑張って滑れるようにならなくてもいい。俺が引っ張って滑ってりゃあ、一緒に楽しめんだろ」 悲壮になりかけた表情が、一転、パァッと光に包まれた。 室内、真冬の氷の上だってのに、周りに花やらモンキチョウやらが飛んで見える。幻だろうが。 「斗織っ、手、繋いでてね」 もう怖いのは忘れたのか、目をキラキラさせて俺の右手を両手で包み込む。 可愛い。そりゃもう、途轍もなく可愛い。 好きな奴がとんでもなく可愛い顔して手を握ってくるんだ。 馬鹿か、コイツは。こっちは健全な男子高生だぞ、分かってんのか。 いや、コイツも同じ健全な男子高生か。 けど、やっぱりコイツ、───分かってねェ!! ただでさえ可愛いのに、更に惚れた欲目がプラスされてんだぞ。 俺ほど理性を鍛えてねェ奴にその顔してみろ。 即行トイレ連れ込まれて掘られっからな! 「……ちゃんと教えてやるから、マジで頑張れよ」 「はいっ、先生!」 「っ───、おう…」 マジで頑張れよ、俺の理性……。

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