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第238話 鬼電話
お兄さんの正体は、斗織の従兄だった。
羽崎 蒼佑 さんと言って、斗織のお父さんのお兄さんの三男坊で、25歳。
斗織のお家と同じで、上の2人はお医者さん。
だけど斗織とは違って、蒼佑さんは何かの跡取りと言う訳でもなく、アパレルショップの店長さんをやっているらしい。
店はアイススケートリンクのあるビルの近くにあって、今日はお休みだったんだけど職場に顔を出したついでに、スケートをしに寄ったそうだ。
アパレル関係なら、もしかしたら母さんの会社と関わることもあるかもしれないな。
イケメンでゲイの人なんて、お姉ちゃんが喜びそう。
そんなことを考えて、乾いた笑いが口から漏れた。
「どうした、遼?緊張してるか?」
隣を歩く斗織が、速度を緩めて覗き込んでくる。
「あっ、ううん。大丈夫」
そうだ。『お姉ちゃんは腐女子』ネタで笑ってる場合じゃなかった。
これから俺は、斗織のお家に行って、鬼のお兄さんにご挨拶しないといけないんだった!!
そーすけさんと3人で暫く話してた…って、言うのかな?
斗織は目に見えて不機嫌だったし、そーすけさんはそんな斗織を可笑しそうにクスクス笑いながら、俺に何か質問しては斗織に怒られて。
話してたって言葉を使うことにはちょっと抵抗がある。
そーすけさんが斗織で遊んでた。そんな感じ。
初めは爽やかで優しそうなお兄さんかと思ったけど、それだけじゃないみたいだ。
そうそう、それで、3人で居た時に、斗織のスマホが電話の着信を告げたんだ。
ディスプレイを見た斗織が顔を顰めるから首を傾げると、俺にも画面を見せてくれた。
着信相手は『鬼』
まさか、数年前に流行ってた、言うことを聞かない子供を脅す為にお母さんたちが使ってたって言う、あの鬼電話が?
そう思って見上げると、
「あー、電話してくる」
斗織は頭をガシガシ掻きながら、何処かへ行ってしまった。
「置いて行かれちゃったね」
そーすけさんが、俺の目を覗いて苦笑する。
「2人で滑る?」
「滑らないです。待ってます」
「じゃ、俺も付き合おうかな。1人になったら、また変な男に絡まれるかもしれないし」
頭を優しくぽんぽん、と撫でられた。
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