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第241話 クリスマスイヴだから

斗織は戻ってくる前に靴を履き替えて、貸し靴も返してきたらしい。 俺のスケート靴とプレゼント交換のバッグだけを手にして、立ち上がるとこちらに向けて手を差し出した。 「怖いだろうけど、一緒に会いに行ってもらえるか?」 「え…?」 何を言われたのか咄嗟に理解できなくて、手に触れようと伸ばした手を一瞬引いてしまう。 えと、怖いお兄さんに、一緒に……… 「俺…も、一緒に……いいの…?」 「どうせ一緒に居るんだろうから、今から連れて来いってよ。寧ろお前がメイン」 「えっ、そうなの…?」 「つーかお前、俺のこと見くびり過ぎじゃねェの? 1日俺に寄越せってこっちから約束取り付けたのに、お前置いてどっか行くとかあり得ねェだろ。  つかさ、俺の優先順位、お前が1番だから。1人で来いっつわれてたらその場で断ってることぐらい悟れ、馬鹿」 「………うんっ」 「それから、覚悟決まんなけりゃ次回繰り越しでもいいからな。今回は、突然呼び出したアッチが悪いってことで」 「ううんっ、行く!」 「なら、行く前に鼻かめよ。ついでに顔洗いに行くか?」 コートから取り出したポケットティッシュで、鼻を押さえられる。 すん、と鼻を啜ると困ったように笑って、 「泣き虫」 おでこをツンと突付かれた。 「っ、らってぇ…」 「ほら、泣き止め泣き止め」 こんな人目に触れるところなのに、斗織は俺の体を軽く抱き寄せると、背中をポンポン撫でてくれた。 俺が1番だって。 俺のこと、1番に考えてくれるんだって。 「斗織も、俺の1番だよ」 胸にほっぺを擦り付けながらそう伝えると、 「トーゼンだろ」 自信満々に応えて、斗織は俺の体をぎゅーっと強く抱き締めてくれたのだった。 ああ…、恥ずかしいな、バカップルみたいで。 だけど、今日はクリスマスイヴ。 どうか、大目に見て下さい。

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