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第244話 居る筈のない人
赤いワンピースに真っ直ぐな長い髪。
俺の名前を呼びながら、おっきなリボンを付けた頭を訊ねるように傾ける。
「……はい…」
普段幼い子と触れ合う機会なんて無いから、どう接したら良いのか分からない。
可愛くて、小さい女の子だ。
斗織に懐いてて、斗織も可愛がってて、「だっこ」なんて当たり前に言えちゃう、斗織にとって特別な、たった一人の女の子。
「りょーおにーた、なかない、いーこいーこ」
「遼?」
真衣ちゃんの言葉に、斗織が俺を振り返る。
頭に手が触れる。
だけどそれはいつもの感触とは違くて。
顔を上げると真衣ちゃんを抱っこしてる芽衣さんと目が合った。
小さな女の子の小さな手が、俺の頭を撫でていた。
「いーこ、いーこ」
「っ……ふぅっ、ぅ…」
情けない。
こんなにちっちゃい子に心配させて、不安でボロボロ泣いちゃってる。
姪っ子だって、まだ子供だって、分かってるのに、斗織の大切な特別な女の子を前にまた、俺は自信を失う。
さっきも、優先順位一番だって言ってくれたのに……
「大丈夫か、遼?大和兄さんが怖いか?」
違う。
大和お兄さんが怖いのは、自分だろ。
だけど俺のは、もっとヒドい。
酷くて弱い。
こんなに小さな女の子が怖い。
斗織の気持ちが俺から離れることが怖い。
「遼、無理そうならまたこんど…」
「遼ちゃん!?どうしたの!?斗織くん!?斗織くんに浮気されたの!?」
「えっ…」
まさかここで聞くとは思っていなかった声に、ビックリして顔を上げる。
「なにしたんだよ、斗織おまえ~っ!リョーくん、大丈夫?」
また、新しい人物の声。
目を瞬かせると涙が零れ落ちて、視界が少しだけクリアになる。
───やっぱりだ。
何故かは分からないけど其処には───斗織のお兄さんの家の中には、お兄さんの同窓生であるマナちゃん先生と、ほんとに何故か、俺のお姉ちゃんである一ノ瀬沙綾が存在していた。
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