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第247話 確かな説得力

【斗織Side】 遼が突然泣き出してからこっち、遼に触れずじまいだ。 俺がやってやりたい事を大和兄さんに取られて、マナちゃんに攫われてじゃあ、流石に良い気はしない。 遼を慰めるのは俺の役目なのに、と恨みがましい視線を送れば、今までデレデレと細くなっていた目がギン───と、また違う意味で細められた。 格好悪いのは承知の上で、竦み上がる他なくなる。 恐らく、目測してひと回りは小さくなった俺に、先程までとは1オクターブはトーンの違うドスのきいた声が投げ付けられる。 音の暴力だ。 「斗織、テメェ遼の泣いた理由、分かってんだろーな」 「え?それは真衣の可愛さに感動して…」 「んな言い訳まんま信じてんのかテメェは!」 「斗織くんバカなの?脳みそ入ってないの?」 兄さんに怒られた直後、沙綾さんにも點された…。 「斗織君は、遼君に真衣のことをなんて説明したの?」 その場でたった一人喧嘩腰ではない芽衣さんに、優しい声音でそう訊ねられる。 そうだな、遼に説明した時は……… 「跡取り候補として、スゲー甘やかして継ぐって言わせるって…」 「スゲー甘やかして?遼ちゃんよりも?」 「えっ?…いや、けど俺、遼が一番だって本人にも…」 「それでもね、例え相手が2才の姪っ子だって、相手が女の子で遼ちゃんが男の子だって事実は覆らないの。 斗織君は男の子が好きって訳じゃないんでしょう?遼ちゃんだから好きなんでしょう? それってとても尊い愛であると同時に、最大の不安要因でもあるの。 やっぱり女の子の方が良いんじゃないか、自分は相手に相応しくないんじゃないか。 抱く側はまだいいわ。中で気持ち良くしてあげることは女の子には出来ないでしょう? でも抱かれる方はね、やっぱり女の子の方が良いんじゃないかって、自分は身体も柔らかくないし胸も無い。女の子の方が気持ち良いんじゃないか、やっぱり自分なんてそのうち捨てられちゃうんじゃないかって。そう思って不安になるものなのよ。 大切なのは、その場での即行フォロー! 泣かせる前に、お前が1番だと言い聞かせる努力!」 沙綾さんは、級長と同じ嗜好を持っているらしい。 だからそれは、本で得た知識──BLの世界の話──なのだろう。 だが、それでもやはりその言葉は、空想の話と捉えて終わらせてはならないように感じる。 それに彼女は、他ならぬ遼の兄弟だ。 遼の憂いの原因はそこなんだろうと思わせる、確かな説得力がある。 「フォローしに行ってきます」 立ち上がる俺に、今度こそ文句を言う人間も止める人間も現れなかった。 俺の為…じゃねェな。遼の気持ちを考えての事だろう。 大和兄さんに、恐らく芽衣さんにも、遼は気に入られたってことなんだろう。 ……つか今更だが、マナちゃんはともかく、なんで沙綾さんが此処に居るんだ?

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