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第248話 少年漫画の主人公
【斗織Side】
「遼」
子供部屋のふすまを開けると、足元に何かが勢い良くぶつかってきた。
「とーゆおにーたっ」
真衣だ。
遼はと言えば、長男の征二の机に一緒に向かい、ありゃあ教科書か?鉛筆を持って、勉強を教えてやってるみたいだ。
マナちゃんは、次男の侑士のアトラクションにされているが、もう疲れたんだろう。ヘロヘロしてる。
「とお…る…」
遼が振り返って、俺の姿を映す。
「悪ィ。兄さんの説教終わったから」
だっこ、と両手を伸ばしてくる真衣を抱き上げながら、待たせて悪かったな、と告げる。
───無意識、だった。
いつものクセで、当たり前にそうしていた。
遼の瞳が淋しげに伏せられる。
「あ、ううん。征二くんと勉強してるから、平気。待ってないよ」
現在進行形の返しに、違和感を覚えた時にはもう遅かった。
「俺、お手洗い借りてくるね。征二くん、また後でね」
「なんか遼、変じゃなかったか?」
早口で、足早に飛び出していった遼に首を傾げていると、その後頭部に拳を振り下ろされた。
「───ぃでっ!」
「いてーじゃねーよ!なんで追わねーんだクソガキ!!」
「はっ?…いや、トイレ…」
見下ろせば、眼力は劣るもののさっき見た大和兄さんに負けない程の迫力を見せたマナちゃんが、俺を睨み上げている。
「んな言い訳、まるっと信じてんじゃねぇ!テメェ、大和にナニ説教喰らってきた」
その言葉にハッとする。
まさか遼のヤツ、まだ不安で俺の前から逃げようと……?
「あの…馬鹿ッ」
「バカはテメェだ!!」
「うぉっ?!…つっ…てェ」
ま…た殴られたぞ。
この年代の男は暴力的なヤツが多いのか?
「真衣ちゃんは置いていけ。リョーくんが気にしてんの、どうせそんなトコなんだろ?お前がハッキリしねーから」
「ハッキリはしてっし!」
「他の女抱きながらじゃなあ?説得力、ねーんだよッ!」
「───ッ!!!」
真衣を下ろしたところで、ケツに思い切り蹴りを入れられた。
これが噂のタイキックか?余りの痛みに声も出ねェ……
痛みに思わずしゃがみこんだ俺を、マナちゃんはニヤリと口元を歪め見下ろしてくる。
「初めて挿れられっ時の痛みは、こんなもんじゃねーぞ」
ガキ共の前でシモネタか!!
けど───
「ありがとな、マナちゃん。目ェ覚めたわ」
「な~に、戦いの最中ヘタれてた少年漫画の主人公みてーなこと言ってやがる」
「感謝してんだからおちょくんな!」
図体はデカくなろうが、俺はいつまでもこの人には敵わないらしい。
マナちゃんと甥っ子共に真衣を預けて、恐らく沙綾さんの元へ向かったであろう遼を追いかけた。
とっとと追い付いて安心させてやらねェと、また泣かせることになる。
幸せにしてやりたいヤツに悲しい思いをさせるなんて、あっちゃなんねェもんな。
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