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第254話 恋人にしかしないこと
「馬鹿が。…なに兄さんの膝になんか…抱かれてんだよ…っ」
息継ぎのタイミングで、苦しそうに吐き出された。
「自分だって…ぁっ、…真衣ちゃ、だっこしてたぁっ」
キスしてるだけなのに、斗織が硬くなったソコをグイグイ押し付けてくるから、身体が熱くて声も震えちゃって。
ポロリと零れた涙が頬を伝う。
「ガキ相手に、ヤキモチか?」
「やく…もぉん。ずるい、俺もだっこぉ」
必死に抱き付きながら訴えると、うなじに這っていた唇から笑い声が漏れる。
ひどい。人が必死にお願いしてるのに笑うなんて。
「抱っこだけでいいのか?」
抱き合った体勢のまま、斗織はぐっと力を入れて立ち上がった。
「やだ…。俺にしかしないこと、いっぱいして」
「ここでか?」
「ここじゃだめぇ」
変なことを言ってくるからじっと睨み上げると、フッと笑われて。それからすぐに、横向きに抱き直される。
「これもお前にだけな」
これ、お姫様抱っこだ……。
俺にしかしない、お姫様抱っこ。
ってことは、俺だけが斗織のお姫様、ってこと……?
「……俺、男だけどいいの?」
「お前が男なんだから、仕方ないだろ」
「え?」
えと、俺は男だけど、の問いかけに、お前が男だからって返しは………???
「…っから、男だどうのはどーでも良くて、重要なのはお前かお前じゃないかだろーが」
投げつけるように吐いた言葉は───
とてもぶっきら棒で乱暴に聞こえるけれど、それはただの照れ隠しだって、俺には分かってしまった。
赤く染まった頬に手を伸ばそうとすれば、身体を跳ね上げることでそれは拒否されて。
だけど、
「ふふっ、斗織、すきーっ」
首に抱き着く腕は自由にさせてくれた。
「どこ行くのー?」
「俺の部屋」
「ほう、そりゃ楽しそうだなァ?」
「───っ!?」
低く轟くその声に、斗織の肩が可哀想になるくらいビクリと大きく跳ねた。
斗織、ホントにお兄ちゃんのこと、苦手なんだねぇ。
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