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第259話 円柱のビル
港区の一等地、敷地の中にはイルミネーションで彩られたソメイヨシノの並木道を通る。
まだ花は咲いていないけれど、青く白く光る灯りはキラキラと輝いてとても綺麗だ。
右にエンジュ、奥にキンモクセイ、左に梅の木と、それぞれ春夏秋冬の並木になっているのだとお姉ちゃんが教えてくれた。
足元の花壇には今の時期、ポインセチアとシクラメンが花を咲かせている。(※正確にはポインセチアの赤く色付いた部分は葉ですが、遼司は植物に詳しくないので花だと思っています)
そして、四方から続く道の中央に、その円柱のビルは聳えていた。
円形のマンションって…間取り不便そう。
正面から自動ドアを潜れば、オレンジ色のライトに照らされたエントランスホールのカウンターから、「お帰りなさいませ、一之瀬様」と声が掛かる。
この人は…、所謂マンションコンシェルジュ?
お姉ちゃんが慣れた様子で、「ただいま、桜庭さん。お疲れ様です」と彼に挨拶を返すから、俺も慌てて頭を下げた。
「こんにちはっ」
「いらっしゃいませ」
桜庭さんは俺にも優しそうな笑みを向けてくれる。
斗織と父さんもそれぞれ挨拶を交わしてる。
斗織には俺と一緒の「いらっしゃいませ」を返してくれたけど、父さんには「お帰りなさいませ」ってお姉ちゃんにしたのとおんなじセリフ。
父さん、昨日はお姉ちゃんの家に泊まってくれたのかな?
桜庭さんの呼んでくれたエレベーターで上へ行く。
ディスプレイの表示は、38階建ての26階を光らせている。
お姉ちゃん、なんて贅沢なところに住んでるんだろう。
夜景とか絶対綺麗だし、東京タワーもスカイツリーもどっちも見えちゃいそう。
若くてもデザイナーって仕事はそんなに儲かるものなのかな。
スーッと音も静かに上昇していたエレベーターが、ふわっと動きを止めた。
エレベーター内もグリーンの毛足の長いカーペットが敷いてあるけれど、一歩ホールに踏み出せば今度は紅いカーペットが靴を沈ませる。
お姉ちゃん踵の高い靴を履いてるけど、歩きづらくないのかな?
エントランスよりも少し明るい照明に照らされた玄昌石風ブラックの扉。
その前でお姉ちゃんは足を止め、認証システムに顔情報を読み込ませると暗証番号を押した。
なんだこの未来空間は。
カチリ、と鍵の開く音をさせた玄関ドアを押し開けると、奥に長く続いた廊下が見える。
大理石の上でパンプスのヒールをカツンと響かせると、
「ただいまー」
お姉ちゃんは中に向かって声を掛けた。
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