277 / 418
第277話 中山の扱い
斗織が手を上げて、垂れた髪を指先でくるくると玩んでる。
俺もお返しに斗織の髪を指で梳く。
ちょっと硬くて黒い髪。黒曜石みたいに綺麗でサラサラと気持ちいい。
リューガくんは膝枕をするのは諦めたようで、反対に級長の膝に頭を預けてソファーの上に寝転んでる。
ひろたんはそろそろ慣れたのか、絡む指先を中山の好きなようにさせていた。
「そう言えばひろたん、昨日は中山とデートだったの?」
ふと、昨日Limeをしていた時のことを思い出して訊いてみた。
すぐ傍にいるような様子だったから、俺たちと一緒でクリスマス(イブ)デートだったのかな?って。
「ううんっ、デートじゃないよ」
「一緒じゃなかったんだ」
「えぇと、あの時は一緒にいたんだけど…」
困ったように笑うひろたんの代わりに、中山が先を続ける。
「最終の練習試合、見に来てくれてたんだよ。っても、あの時以外は美術部の部室から見ててくれてたみたいだけど」
「だって…あんな女の子いっぱいのところ、応援に行けないよ…」
どうやら昨日はサッカー部の試合だったみたいだ。
…そうだねぇ、ひろたん、怖くて応援に行けないって言ってたもん。
部室からでも見ていてくれてた分、頑張ったんだと思うよ。
俺も、斗織からお茶の教室に参加してって言われても、行ける気がしない。
女の子ばっかりだろうし、何よりあの子に会うのが怖い。
「サッカー部って冬休みでも部活やってるんだねぇ」
えらいえらい、と他人事に褒めていれば、
「はぁっ!?」
ひろたんの心地良さそうな膝の上から、中山がガバリと起き上がった。
「うち、選手権出場だよ!?全国大会だよ!?年末年始めっちゃ本番で試合すんだけど!?Aブロック優勝したんだよ!?」
「えっ、そうなの!?」
選手権?Aブロック…?
「あー…、リョーちん、そういやオレ、校舎になんか垂れ幕下がってんの見たかも」
「あ?そんなん有ったっけか?」
「あったよ!滅茶苦茶目立ってたよ!駅前通りにも横断幕とか旗とかいっぱい飾ってあっただろ、今日も!!」
言われてみれば……、あったような気がする。
うん、あくまで気がするだけだけど。
クリスマスの飾りつけの方が派手だから気付かなかった。
「帰りに見てみるよ」
「別に見なくてもいいだろ。本人が言ってんだから嘘でもねェだろーし」
「嘘じゃないからね?!」
本当に凄いことなんだろう。
全国大会ってことは、都内で一番になったってことだもんね。
Aブロックとかは何のことか分からないけど。
うちの学校って、サッカー部、そんなに凄かったんだぁ。
友達がインハイ出場するなら、全国おめでとうって一緒に喜んで、応援に行った方がいいのかもしれない。けど。
だけど、中山の扱いって、俺たちの中じゃこれがスタンダードなんだよねぇ。
「ふふっ、がんばれ」
「スゲー心こもってねえし!!」
「全国でヘマって同じ学校通ってる俺に恥かかせんなよ」
「あ、そんじゃこんなとこで遊んでちゃダメなんじゃねーの?早く帰ってレンシューしろよ」
「交換用のプレゼントは置いて行ってくださいね、中山君」
「お前らなんでそんな優しくないの!?」
「なっ、中山くんっ、僕はちゃんと応援してるからっ」
「高山~~~っ!!!」
ともだちにシェアしよう!