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第282話 祭りの終わり

良く聞く話ではあったけれど、本当に楽しい時間って言うのはあっという間で……。 午後6時過ぎ。もうすっかり日も落ちて、これ以上遅くなると寒さも厳しくなるからと、お暇することになった。 送りに来てくれた級長と駅で別れて、俺たちの一つ手前の駅でひろたんと中山ともお別れ。 「またね」と挨拶したのは、年内にまた会う約束を交わしたから。 斗織と年末年始逢えなくて淋しいって溢してたら、じゃあ自分たちと遊ぼう!って、ひろたんと級長とリューガくん、3人が誘ってくれた。 中山だけは部活で忙しいから、……と言うより、斗織が物凄い眼力で睨みつけるから言葉を挿み込めなかったみたいだけど。 駅を出て、てくてく歩く。 リューガくんとは途中で別れて。 斗織はうちに荷物が置きっぱなしになってるから、取りに寄って、家へ帰る。 明日午前中、お父さんとお母さんが帰ってくるからって。 家にいなくちゃいけないから、今日はもう泊まっていけない。 さっきまで皆で、あんなに楽しかったのに……… 今は、とっても淋しい。 玄関を開けて、自分だけ靴を脱ぐ。後に続こうとする斗織を「カバン持ってくるから待ってて」と押し留めて、パーテーションの陰に隠れた。 淋しいなんて、気付かれちゃだめだ。 だって、気付いたら斗織、帰りづらくなっちゃうでしょ。 「上がったら駄目なのか?」 「うん、だめ」 「飯は?作ってくんねェの?」 「食べたら、遅くなるから」 斗織の大きなスポーツバッグを持って、はい、と差し出す。顔は俯けたままで。 見られないもん。 …ううん、見せられない。こんな顔。 「次、来年?」 「…悪ィ。三賀日明けてからになる」 「そっか。…じゃあ、またね」 「…帰りたくねェんだけど」 「じゃあ…、っ………」 帰らないで、って出かけた言葉を飲み込んで、バッグをぎゅっと押し付ける。 「じゃあさ、…余計にこのまま帰んないと。部屋に上がったら斗織、俺のこと、離せなくなっちゃうよ?」 へへって笑って、顔を上げた。 俺が泣いてるんじゃ?なんて思ったら、心配で本当に帰れなくなっちゃうもんね。 平気だよって顔をして、バイバイと手を振る。 見上げた先で斗織は、眉間にしわを寄せて視線を泳がせると、 唐突に、大きなバッグを部屋の中にポーンと放り込んだ。 「えっ!?」 「やめた。帰んねェ」 「えっ、でも、明日帰ってくるって…」 「朝帰る」 「平気なの?」 「取り敢えずお前こっち来い。お前が泣いてるのに放って帰れるほど、俺は大人じゃねェんだよ」 手首をグッと引き寄せられ、抱き締められた。 本当は斗織のことを帰してあげなきゃいけないのは分かってる筈なのに、だけどそうしてくれることが嬉しくて…… 俺は浅ましくも、その背中に手をまわしてきゅっと抱き返したのだった。

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