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第283話 冬休み
明日は多くの会社が仕事修めの12月29日。
クリスマスパーティーの翌日、朝早くにうちを出て以来、斗織とは逢えないまま。
毎日Limeでやり取りはしてる。夜にはおやすみの電話もする。
電話を切るときには、いつもすっごく淋しくなる。
そんな時はちゃんと「淋しい」って伝えて、慰めてもらってるんだ。
「淋しい時はちゃんとそう言え。その方が、…なんつーか……愛されてる気がすんだろーがッ」
俺を抱き締めた後、ひたすら照れながら斗織が言ってくれた言葉のお蔭で、ああ…我慢しなくていいんだ!って。目の前がぱぁっと明るくなったみたいに気持ちが晴れて、
「俺も……淋しいから…」
ぼそりと呟かれたセリフに、
俺、愛されてるなぁ!
って、溶けちゃいそうに嬉しくなった。
「斗織、…淋しい、逢いたい」
『ん……、俺も』
ボソッて、ちっちゃい声。照れてんだよね、かわいいなぁ。
「あのね、今日はリューガくんとケーキ食べた」
『お前毎日ケーキ食ってねェか?太んぞ』
「う~、ひどい!毎日は食べてないよ。23、24、25で3日連続で食べた後は、ちゃんと2日空けたでしょー?」
『一昨日だって、朝からパンケーキだったろ。クッキーも食ってたし。昨日は高原とクレープ食い行ったっつってただろーが』
「うっ…、ケーキじゃないもんっ」
『ホントお前甘いもん好きだよな。だからお前の体も甘くなんじゃねェのか?遼…』
電話口から、どっちが甘いんだよ!!って文句を言いたくなるほどの甘い声。
……もう、2日も逢ってない。
学校で、学校が無くてもほぼ毎日、少ない時間でも逢えていたのに。
そんな声出して俺の名前 呼んで……
俺がエッチな気分になっちゃったらどうするつもりだよ。
俺、自分で触っても気持ちよくなんてならないんだから。
斗織に触ってもらわないと、ダメなんだから。
『明日は、級長だっけか』
斗織の声が熱を含んでいたのは一瞬のことで、すぐに元の温度に戻った。
「うん。東京ビッ〇サイト」
『冬コミ…つったっけ?』
「うん、きぅちょうが時々貸してくれる、薄い本が買えるイベントなんだって」
『お前も買うのか?ソレ』
「ううん。俺は付き添い。…ていうか、きぅちょうが凄く熱心に誘ってくれるから、楽しいなら行ってみようかなって」
『そっか…。気を付けて行って来いよ。級長も、楽しいだけでどうにか出来る場所じゃない、戦場だ、って言ってたからな』
「えっ!?戦場なの!?」
うそっ!なにソレ級長!
俺、それ聞いてないよ!?
『明日は何時に行くんだ?』
「始発の次のに乗って、10時入場開始だって」
『始発の次ので10時?そんな遠く……はねェよな…』
「すっごく並ぶんだって。水分と軽く食べられるものと、防寒具だけはきちっとして来るように言われてるよ」
『手袋してけよ』
「うん、してく」
『…お前、やっぱり持ってたんだな』
斗織が電話の向こうで声を殺してクク…と笑う。
「なぁに?」
『いや、なんでもねェ。じゃあそろそろ寝とけ』
あ……、電話を切る合図だ。
斗織の「そろそろ」って言葉を聞く度、今までぽかぽかだった気持ちが沈む。
毎日。毎回。
淋しくて、胸がぎゅーって苦しくなる。
「……淋しい」
『……俺も』
「あっ!じゃあ、ちゅーしてっ。大好き、おやすみ、ちゅーっ、て」
『電話にか?』
「うんっ!」
『……はっ、やんねェよ、ばーか』
「む~、けーちっ。サービスしろよー」
照れ屋な斗織も可愛いけどさ、やっぱり「愛してる」って気持ち全開、態度で示してほしい訳で……
でも、仕方ない。電話越しじゃ、恥ずかしいんだろ。次に逢えたらめいっぱい、抱き締めて可愛がってもらえればそれでいい。
だって、ムリヤリ引き出した「好き」が欲しい訳じゃない。どうしようもなく溢れだしちゃうみたいな「大好き」を感じるのが、幸せなんだから。
だから俺は、
「斗織、大好き!おやすみなさいっ」
自らチュッとリップ音を立ててやった。
「おまっ…りょ」
プツッ…
何か言っているのが聞こえたけど、一方的に電話を切っちゃう。
さあ、明日は早いから、本当にそろそろ眠らないと。
枕元でスマホを充電器に差して、ベッドに潜り込み黒うさぎのぬいぐるみ、俺の可愛いとおるくんを抱き締める。
「おやすみ、父さん」
「おやすみ」
お風呂上がりの父さんに挨拶して、ブブッと震えたスマホを見ると、たった一言。
『おやすみ』
その言い忘れた4文字だけが、Limeのトーク画面に届いていた。
ちゅっ、ってウインクで投げキッスしてるリスのスタンプを送ってから、目を閉じた。
淋しいのは変わらないけど、ちょっとだけ、心があったかくなった。
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