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第286話 昭和な中二トーク
伯爵くん───って呼び名は、級長がネット上で名乗っている『ラント伯爵』からの略称らしい。
『ラント』ってのはドイツ語で『陸』って意味。
級長の本名の嵯峨野陸翔から、一文字入れたかったんだって。
それから伯爵の方は、中学生の頃クラスメイト達から「貴族っぽい」「なんか伯爵っぽい」と言われていたのが由来だそう。
中二の時に付けたものですから、厨ニ病臭いことには目を瞑ってくださいね、って言われた。
確かに級長、なんか貴族っぽい。
でももしかしたら高校に上がって、伯爵から格上げされたんじゃないかな、雰囲気。
伯爵よりも、公爵っぽい気がする。
若公爵って感じ!
こういう所では本名を名乗らないのが普通だから、俺も何か考えておくようにと言われてた。
思い付かないから「リョウ」でいいよ。って言おうと思ってたんだけど……
「遼」って呼ぶのは斗織だけがいいな…って思って。
だから今日だけは───
「期待を裏切るようで申し訳ないのですが、こちらはただの友達のトオル君です」
「はじめまして。あの、……トオル…です」
会釈をした俺を見て、級長は少し悪戯っぽく笑うけれど……
違うから。
別に会えなくて淋しいからとか、会えない腹いせで名を語ってるとかじゃないから。
「えー?こんなに可愛いのに?お似合いなのに?えぇ~?」
明らかに疑いの眼差しを向けてくるおねえさん。
「彼が可愛いのには理由 がある、とは?」
何故かニヤリと笑みを浮かべる級長。
「ワケ!?ワケですと!?…ほほぅ、それではその理由ってやつを、詳しく聞かせてもらいましょうか?」
「踏み込まれますか?自らこの深淵へ」
「元より腐沼にどっぷり浸かった身。真実を知らされぬこと以上に怖ろしいものがございましょうか」
「では、お覚悟をお決めくださいますよう」
「…………」
なんだこの遣り取りは。
昭和初期が舞台の小説読んでるみたい。
それに、どうせ真実とか深淵なんて言ったところで………
「実は、トオル君には素敵な茶道家のカレシがいるんです。長身で黒髪イケメンの和装男子ですよ」
「あ…ああぁ…っ!!尊いっ…!ご馳走様ですっっ!!」
どうやら斗織は、腐沼にどっぷりのおねえさんに頂かれてしまったらしい。
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