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第289話 戦利品
フルカラーの表紙を開く。
それは明治時代のお話で、主人公は小さくて可愛らしい病弱な男の子だった。
表紙の彼は書生として、主人公の家で下宿している。
2人は互いに惹かれ合っているのだけれど、一歩を踏み出せずに両片想い。
そのうち、主人公の妹が書生に惚れたと言い出し、その父親も、ならばうちの長男は弱くて家を預けられないから娘と結婚して跡継ぎになればいい、だなんて…。
主人公は彼の為になるならば、彼の人生の邪魔にならないように、と療養を理由に家を離れることにする。
ハッピーエンドなんだけど、切なくて苦しい、だけど優しくてあったかい……そんなお話だった。
奥付の手前、最後のページ。
笑顔の2人に、ほぅ…と息を吐く。
斗織とよく似た書生と、可愛い黒髪の主人公。
とても幸せそうで、とてもお似合いだ。
主人公が、妹と歩く書生を見て、なんてお似合いなんだろうって涙を堪えるシーンがあったけど………
彼だって、……ううん、彼こそが彼の隣に相応しい。
ニセモノの笑顔と美しさで繕って書生の愛を手に入れようと画策する妹よりも、彼の幸せの為にと心を砕く主人公の愛は尊く美しい。
彼の為に自分の想いを封じ込めようとしたことは、とても悲しかったけれど。
こんな風に無償の愛を相手に向けられる人が……斗織には相応しいのかもしれない。
俺みたいに、自分の都合で振り回すようなヤツ、斗織にはきっと全然似合ってない。
ちょっと逢えなくなっただけで、我侭に、逢いたい…だなんて……
買ったばかりの本に、涙で染みを作っちゃうような
男なんて……───
「───っ!」
前触れもなくブルルと震えたスマホに、心臓がバクリとなった。
出掛けた時のまま、マナーモードにしたきりだったらしい。
俯せになっていたスマホを表に返すと、ディスプレイは斗織からの着信を知らせていた。
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