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第291話 好きの明日

5分経ち 10分経ち─── 段々と、待つのが辛くなってきた。 普段だったら一時間だってウキウキして待ってられる筈なのに。 斗織の家族だとか、俺が男だとか、見た目が釣り合ってないんじゃないか、とか…… 余計なことばかり浮かんでくる所為かもしれない。 好きなんて気持ちは所詮曖昧なもので、自分の心一つ、相手の心一つ。 好きって気持ちがいつまで持つのか、本人にだって予想がつかない。 突然明日、何かが起こって嫌いになるかもしれない。 相手が死しても尚、愛し続けるかもしれない。 魂と魂になっても、互いを求め合うかもしれない。 俺も斗織とそうなりたいけど、斗織がどうかはわからない。 そうなりたいって言ってる俺の明日だってまた、確定ではないんだ。 だけど─── 掲げたとおるくんの真っ黒な瞳。 俺しかいない。 この子を愛し、死ぬまで共に過ごせるのは、俺の他にはいない。 そんなお前を俺にくれたのは、斗織なんだよね……… いつ掛かって来るか分からない電話。 ちらりとスマホに目を向ける。 チカチカッとランプが光った。 「───っ!!」 慌てて手に取り、音が鳴る前に着信をタップする。 「斗織っ!?」 スマホからは返事じゃなくて、小さく喉で笑う声が聞こえてきた。 『ちゃんと相手確認したか?』 危ないから確認してから出ろよ、なんて子供か女の子でも窘めるように。 「確認した。一瞬だったけど」 『にしても、出るの早すぎだろ』 楽しそうな笑い声。 俺はとっても寂しいのに。 「そんなことより、何してたんだよー、俺ほっぽって」 ベッドに俯せになって脚をばたつかせる。 巻き込まれたら可哀想だから、とおるくんは枕元に避難させた。 『ん…、いや。どうしても気になることがあってな』 「………俺のことより?」 『いや、お前のこと』 「俺のこと…?」 首を傾げると、まるで今の俺の姿が見えているかのように、斗織は「そんな不服そうな顔すんなよ」と笑った。 『取り敢えずさ、寒ィから入れてくんねェ?』 「え?入れるって……何処に?」 『お前の中…でもいいけど?』 「っ───!!」 急に下ネタぶっ込まれた。 「………今すぐ抱き締めてくれるなら、ウェルカムですよ…?」 出来ないくせに、と心の中で悪態ついて、見えないのをいい事にイーッて顔をする。 『じゃあ、そういうことで』 ───プツッと。 前触れもなく、通話が切れた。 「えっ…?うそ!?なに!?どういう事だよ…?!」 耳を離したスマホには、斗織との通話中に映し出されるWとおるのツーショ写真は無く、 既に通話が終了したことを知らせる画面に切り替わっている。 「えっ、うそ!ひどくない!?え、なにコレ!?」 動揺してる俺の耳に、今度は ピンポーン と、エントランスからの呼び鈴の音が入り込む。 「もう、なんだよっ!?」 荒々しい足取りでドアフォンに向かい、ディスプレイを尖った目で捉えれば─── ───そこには、つい今しがたスマホで会話していた愛しい人が、映し出されていた。

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