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第294話 家族
年末年始は母さんとお姉ちゃんの家で、父さんと4人、家族水入らずで過ごしてる。
家族……だって。
仕事ですれ違って、誤解したまま話し合いもせずに離婚したくせにさ……。
やり直すんだって。
再婚するんだって。
俺たちまた、家族なんだってさ。
お姉ちゃんは俺の隣を陣取って、事あるごとにぎゅーぎゅー抱き締めてくる。
父さんと母さんはそれを見て、幸せそうに顔を見合わせて笑ってる。
家族みたい。
ずっと離れてたくせにさ、ちゃんと家族なんだもん。
幸せ過ぎて、嬉しすぎて、どうしたらいいのかわかんない。
これで斗織も一緒にいてくれたら完璧なのにな……
そんなことを思って軽く息を吐く。
母さんが気張って用意したおせち料理を食べて、ご飯を作らなくてもいい、動く気力もないし、このままダラダラと3日まで過ごして……
「遼ちゃん、初詣行こう!」
目の前でお姉ちゃんがパン!と手を叩いた。
「え…、近くに神社あるの?」
ここ数日でぐうたらに慣れてしまった体。
この高さのビル、はっきり言って下まで下りるのも面倒くさい。地上が遠い。
ご飯も作らなくていい、宿題も終わらせてから来たし、なにより「ずっと聖一郎の面倒見てきたんだから、年末年始くらい休みなさい」って母さんの言葉。
ちょっと動こうとするだけで煩いんだから……、黙って従うしかないじゃないか。
友達を作らなかった数年間、淋しさにも気付けなかった俺だけど、
家事をするのが当たり前だと思ってた、自分の仕事だって思ってたから。
毎日の仕事をやらなくていいことが、こんなに楽な事だなんて考えもしなかった。
でも、こんなぐうたら生活を続けてたら、元の生活に戻れなくなっちゃうかも。
「近所でも良いんだけど、折角だから神宮まで行こう、遼ちゃん!」
早く早く、とお姉ちゃんに手を引っ張られる。
「明治神宮?すごく混んでない?」
「混んでるのがいいの!正月の風物詩だから。ほら、父さんも母さんも、出掛ける用意して!」
「僕たちもかい?」
「えー?化粧するから10分じゃ終わらないわよ?」
「15分待ちましょう!」
母さんは、仕方ないわね、と苦笑して、ソファーから立ち上がった。
父さんも、部屋着から着替えるためにクローゼットへと向かう。
「遼ちゃんの服は私が選んであげるからね」
キラッキラの笑顔で、お姉ちゃんも服を取りに父さんの背中を追いかけて行った。
ぐうたらなお正月は、一旦休止みたい。
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