295 / 418

第295話 初詣

山手線に乗って原宿を目指す。 元日は神宮側の改札が開くんだっけ。 外回りに乗るから丁度いい。 初めは少し面倒くさいと思っていたお出掛けだけど…… 家族4人で電車に乗るなんて、何年ぶりだろう? 多分、小4か小5の時が最後だから、それから6年…それ以上。 ちょっと、ドキドキする。 だけど、混雑する電車の中、父さんが庇うのは俺の身で……。 そこは母さんだろ!って小声で非難すれば、眉尻を下げて、「……ねぇ」と笑った。 だよねえ、じゃないっての! なに照れちゃってんだか。 電車が駅に入り、流れに乗っていつもは使われないホームに降りる。 うちみたいな家族連れ、友達同士、恋人同士……いや、別に羨ましくなんてないし… 晴れ着の人もチラホラいる。 晴れ着率は圧倒的に女性が多いけど、羽織袴の男の人もちょっとだけ。 ……でも、どの人よりも、俺の斗織が一番格好いい! 今日はまだお祖父さんの家にいる筈だ。 お祖父さんはお医者さんだから、別に着物で集合ってこともないんだろうけど…。 きっと斗織は着物だよね。 俺も、斗織から借りてる着物で着付けの練習してみようかな。 いつの間にか1人で着られるようになってたら、きっと斗織ビックリするよね。 でもあの着物、斗織サイズだから長いんだよなぁ。 ちゃんと着ようと思ったら、女性みたいにおはしょり作らないと裾が余っちゃう。 「遼ちゃん、ちゃんと前見て歩かないと危ないよ」 目線は進行方向を捉えていた筈なのに、俺が考え事しながら歩いていたことに気付いたお姉ちゃん。 どうせ斗織くんのことでしょー?とニヨニヨされた。 「そうですけどー」 隠してもすぐに嘘だってバレちゃうだろうし、素直に認めて口を尖らす。 「ふふっ、遼ちゃんたら、和装の人見ても、黒髪の長身見ても、あの辺の同い年ぐらいの男の子たち見ても、斗織くんのことばかり思い出しちゃって」 「うるさ~い。別に普通だもん」 逢えない恋人のこと、ついつい考えちゃうのは仕方ないことだと思う。 だって、俺たち超ラブラブな訳だし…さ…… 「遼ちゃん照れてる!可愛い~」 「照れてないもん」 ほっぺをつんつんしてくる指先と抗争していると、 「こら、沙綾。あんまり遼司のことからかわないの」 母さんが、まるでお母さんみたいな注意を…ってまあ真実お母さんなんだけど。 「聖一郎も、笑ってないで何か言いなさいよ」 「んー…、姉弟仲良くて微笑ましいね。───幸せって、こういう日常のことを言うんだろうね…遼司?」 しみじみとそう口にした父さんに笑いかけられて、つられるように頷いた。 あったかい…ひだまりみたいな日常。 三賀日が明けて、3人の仕事が始まればまた慌ただしい日々に戻り、ゆったりと時間を過ごすことも無くなってしまうのだろうけど。 もう大丈夫かな、って思う。 俺達はまた、家族でいられるって。 ───そんな時、 「───りょーじ…?」 俺の耳に、俺の名前を呼ぶ声が届いた。 「りょーじ…なのか……?」 戸惑い、驚きを隠せない、男の声。 振り返れば金髪の男が、俺の姿を捉えていた。

ともだちにシェアしよう!