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第297話 幼馴染

溝呂木(みぞろぎ) 静馬(しずま)。 俺の幼馴染。 幼稚園の頃からの友達で、斗織曰く、俺のトラウマの原因になった人だ。 子供の頃は舌っ足らずだった俺。 『しずま』って発音できなくて、しーくんって呼んでた。 さっき、それを思い出したしーくんに「静馬って呼んでみ?」って言われて「しずま」って呼んでみたんだけど…… ちゃんと言えてる筈なのに、プッて笑われたから、もう呼んでやらない。 二十歳過ぎても還暦過ぎたって、しーくんで良いんだ、しーくんなんて。 早番のバイト仲間たちと初詣に来ていたらしいしーくんは、彼らにごめんと断ると、うちの家族と勝手に合流した。 まあ、お姉ちゃんは元より、父さん母さんとも面識あるし、3人とも歓迎してるみたいだから良いんだけど。 今は初詣も終えて、5人でファミレスで休憩中。 ソファー席に俺を挟んでお姉ちゃんとしーくんが、正面の椅子に父さんと母さんが並んでる。 「大きくなったね、静馬君」 父さんがにこやかに声を掛ければ、 「ほんと。それに何よその金髪。遼司が不審者扱いしちゃったじゃない」 母さんも楽しげに、しーくんの髪色を笑い飛ばす。 「やー、うちのガッコーこんぐらいやってないと舐められっからさぁ。にしても、おじちゃんもおばちゃんもわっかいよね。うちの親なんかもう腹出たオッサン、オバサンだよ」 「いつまでも遼司の自慢の父親でいたいからね」 「聖一郎も大概親バカよねぇ」 「そうかな?」 久々の再開に、3人は楽しそうに談笑してる。 俺だって、なんにも無かったんなら一緒に楽しみたいけど、 でも……… 不意にしーくんがテーブルに頬杖をついて、こっちを見上げた。 「ちなみに俺は175あるけど、りょーじは?」 ………余計なお世話だ。 ニヤリと笑うその口元が憎らしい。 「170……無いくらい」 「いや、俺の見積もったとこ、165ちょいって感じ?」 「…………167…くらいあるし」 「うはっ、おっきくなったなぁ、りょーじ。ほら、ほっぺプクーってなっちゃってんぞ。 ……ああ!相変わらず可愛くてヤバいな!俺の天使」 ………誰がアンタの天使だ! バカにして! 勝手に抱き締めてくるからギン───と睨み付ける。 「ん?どうした?怒ってんの?よーしよしよし」 「怒ってるに決まってんだろ。……俺のことなんて、すっかり忘れてると思ってたし…っ」 尖った唇でずっと言いたかった文句を言い放つと、 「忘れるワケねーだろ? 火事になったんだって」 しーくんは、ちょっとだけ神妙な顔をして、軽く息を吐いた。 「火事……?」 はじめてのワードに、首を傾げる。 怒ってるのも忘れて、頭を撫でてくる斗織以外の手を甘受した。 「中1の時な、うちが火事で半焼。パソコンから携帯、電話帳、手紙、写真、全部燃えて無くなって、暫く忙しくしてたんだよ」 淋しい思いさせてごめんな───と、しーくんは俺を胸に抱き寄せた。

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