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第299話 一番
俺の思い込みだった。
面倒臭くて切られたなんて、
傍にいる友達を選んだなんて、
ただの俺の勘違いで、
しーくんはずっと、俺のことを思っててくれたんだ。
斗織のこと───離れても放さないって、俺の居場所を作るって言ってくれたこと───勿論信じてなかったなんて
そんな事はないけれど……
それでも何処か不安に感じてた。
俺が傍にいられない間に素敵な人が現れたら、斗織だってそっちを選んじゃうんじゃないか…って。
だけど、会えない間もしーくんの一番の友達は俺、だったんだ!
「俺の一番の友達も、しーくんだよ!」
両手を握って伝えると、しーくんは一瞬で真っ赤に染まった顔を俯けて、何故だか体をプルプルと震わせた。
高校生にもなって、余りにも恥ずかし過ぎること言っちゃったかな?
それとも、俺、ちょっと気持ち悪かった…?
───ま、いいや。そんなことより!
「母さん、斗織にLimeしていい?」
一緒にいる時はスマホに気を取られないこと、なんてルールを勝手に作った母さん。
お姉ちゃんにはそんなこと言わないのに、俺に関してはちょっと煩い。
「なに?急用?」
「急用って言うか…ね」
父さんが、俺が眠ってる間に斗織に昔話なんてするから、斗織がしーくんのことをトラウマだなんて思い込んじゃったんだ。
だから、もう大丈夫だよって伝えたい。
そんな事を掻い摘んで話せば、母さんより先にお姉ちゃんが反応を見せた。
「でもいいじゃない。その誤解のお陰で斗織くんから“トラウマごとお前のこと抱き締めてやる”なんて!きゃーっ!」
「………」
お姉ちゃん、お店でうるさい。
似てない声真似までして!
「あら、斗織ってばやるわね」
また母さんは勝手に斗織を呼び捨てする!
「そうだよ。斗織くんはいつでも遼司のことを一番に考えてくれてるんだから。遼司も斗織くんを大切にしなくちゃね」
「うん」
父さんはやっぱり俺のことを考えてくれてる。
───と思ったのも束の間。
「ついこの前も、帰ったら斗織くんが家に来ててね、電話で遼司の様子がおかしかったからって」
「あっ、父さんっ!」
余計なこと言わないで、って名前を呼んだのに、父さんは俺と目を合わせて微笑むと伸ばした手で子供にやるみたいに優しく頭を撫でてくる。
「自分のお宅の都合もあるのに、遼司が淋しくないようにって僕が帰るまで一緒にいてくれたんだよね。帰る時には着ていた着物まで置いていってくれて」
「着ていた着物?!父さん!ちょっとその辺を詳しく!」
お姉ちゃん、ノリがサークルのお姉さんと一緒なんですが……。
とにかく、3人が斗織の話で盛り上がってる間に、俺はLime送っちゃおっと。
スマホを取り出して、斗織とのメッセの画面を開く。
『斗織におしらせがあります。』
今日は親戚の人と一緒にいるから、すぐには既読も付かないだろうけど。
読んだら斗織、安心してくれるかな…?
良かったな、って言ってくれるかな……?
『前に父さんが話した幼馴染の話ね、俺の勘違いだった。』
「な、なあ……りょーじ?」
「なぁに?」
『初詣に行って、偶然再開したんだ。
俺のこと、ずっと忘れてなかったって!』
「とーるって誰…?」
「んー?俺の恋人ー」
『全然トラウマなんかじゃなかったよ。』
「っ───恋人!?」
「んー…」
『今すっごく斗織に逢いたい。
次に逢った時には、俺のこと
ぎゅって抱き締めてくれますか?』
好き好きビーム!してるスタンプを送って、スマホをポッケに仕舞った。
「りょーじ恋人いんの!?なんで!?」
「…………」
さっきから気になってたんだけどさ……
しーくん、うるさい。
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