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第301話 紫藤一家の共通点

【静馬Side】 「俺だって恋人ぐらいいるよ」 つんと尖った唇がすこぶる可愛い。 可愛い…んだけどさぁ……… 「トール…君?…って、男……?」 「男だよ?」 なんでそんなこと訊くんだろう?って感じで、不思議そうに見返された。 ……いや、確かに俺もりょーじLOVEだから、偏見があるわけじゃねーけどさ…。 コイツに関しちゃ、普通に女好きな男だって絆されちまいそうだし。 絶対そのトールってヤツも、コイツのウルウル目やキラッキラの笑顔や、貴方に頼りきってます♡ みたいなスキンシップにやられたんだろ。 「えっと、…どんなヤツ?」 「長身黒髪イケメンの男前」 俺はりょーじに訊いたってのに、なんでそこでさーや姉ちゃんが答える!? 「いや、アンタに訊いてねーし。つかそれ、ファザコン抉らしてね?!」 「だよねー」 「…ねえ」 「そうかな…」 苦笑する3人に、りょーじだけは「何それ意味分かんないし」とプリプリしてる。 「で、本人茶道家の和装男子で、父親と兄2人はお医者さん。お祖父様が病院長。お母様は茶道の家元で、武家屋敷みたいな日本家屋に住んでんのよ」 「げ…、なんだその金持ち設定」 「遼ちゃんのことすんごく愛しちゃってて、生涯を共に過ごす約束済。うちの両親にだって認められてるんだから」 フフン、と笑うさーや姉ちゃん。 なんでアンタがドヤ顔なんだよ。 「もー、なんでお姉ちゃんが斗織のこと勝手に話しちゃう訳?」 んで、りょーじはまた唇尖らしてるし。 そのとんがった唇がなんかヤラシー。 ……のは、その男に色々ヤラれてる所為……なんだろーな!くそっ!! 頭をガジガジ掻いてから、突然の奇行にビックリしてるりょーじに顔を向ける。 「で、りょーじはソイツんこと、好きなのかよ?」 りょーじは俺の言葉に一瞬目をパチクリさせたけど、 やがて言葉の意味を解し、頬を仄かに赤く染め、目尻を下げてふにゃんと…… 俺が見たことも無い顔をして、笑った。 「───うん。すごく、大好き」 そんな笑顔見せられたらさ、 認めざるを得なくなんじゃんか。 保育園の頃から小5まで、ずっと一緒にいた俺が、させてやれなかった顔じゃん、それ。 満開に花咲かせてる、恋してます、幸せですって顔。 1年毎に転勤で、こっちに戻ってきたのは去年の4月。 たったの9ヶ月しか一緒に居ないくせに、俺の天使にこんな顔させられる男って、ソイツ一体どんなヤツだよ。 「あー………、まあ、アレだ」 「アレって?」 「………末永くお幸せにってヤツ!」 「っ………ありがとう!」 ほら、俺だって負けてねーし。 りょーじにこんな顔でありがとうって言わせられんのなんか、俺しかいねーっての。 比べてる時点で自ら負けに行ってんだろ、って事実には、今は蓋をして。 さっきチラッと聞いた話じゃ、俺と連絡取れなくなったことを、一緒に遊べない自分なんかこの先相手すんのも面倒くさいから捨てられた、とか思ってたんだろ? そんで、りょーじの事だからきっと、もう友達なんか作らない!とか言って拗ねて、上辺だけの付き合い重ねて。 そんなりょーじをさ、こんな幸せそうに笑わせられるヤツが現れてさ、……なんか、良かったじゃんか。 それが俺じゃないってのが、大分堪えるけど。 両親が離婚して、父親の転勤生活について回って、多分父ちゃん大好きなコイツは、自分の出来ること、出来ないことでもなんでもやってやろうって努力して…………ん?……んん?? 「………おじちゃんとおばちゃんてさ、離婚してなかった?」 「してるわよ」 そんな、おばちゃん…シレッと何でも無い顔で…… 「にしては、なんか仲良すぎない?」 「再婚するからね」 「へっ…!?誰と誰が!?」 「僕としほりさん」 「私と聖一郎」 「なんで!?」 「誤解が解けたから…かな」 「えっ、そーなの!?  ちなみに、さーや姉ちゃんはけっこ…」 「仕事が恋人ですからっ!」 離婚して同じ相手と再婚、長女は仕事が恋人、長男は恋人が男。 この一見して幸せそうな紫藤一家。 どうにも闇が深そうだ……… なんて、んなことも無さそうだな。 なんだかんだ言ってこの人たち、結局は周りを振り回すのが得意な、能天気の天然似た者ファミリーだ。

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