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第302話 親族の集い

【斗織Side】 懐に忍ばせておいたスマホが震えた。 壁に身を寄せそっと覗き見る。 どうやら、遼からのLimeを受信したらしい。 元の場所に戻しても何度も震えて、メッセが次々と送られてきているようだ。 何かあったのか? 気になるが、今の状況で退室はし辛い。 もう少し遅い時間で大人たちに酒が入れば、抜け出してもそうそうバレはしないだろうが。 用意された俺の席に戻ると、隣に座る大和兄さんがこちらに目をやった。 「遼か?」 小声で訊いてくるから、目で肯定してみせる。 「そうか」 何も無かったように顔を背ける。 大分堅苦しい正月の集まり。 親族───勿論連れ合いと子どもたちも強制参加だ。 俺は遼と添い遂げるつもりだが、男同士だから子供は出来ない。けど…… やっぱり遼だけは、ここに連れて来ねーといけねェのかな…。 出来ればあの笑顔を家の事情で曇らせたくはないんだが。 一也兄さんはどうすんだろう。 兄さんの湯呑みが空になった瞬間、茶を注ぎに行くフリをして傍に寄る。 大人たちに聞えないよう訊ねてみれば、一也兄さんは眉毛を下げて苦笑した。 「……どうしようね…。今度兄弟で会議しようか?」 「兄弟って、また俺も巻き込まれんのかよ。ま、マナも遼も気に入ってっからいいけどよ」 「…ご迷惑おかけします」 「だからテメェはなんで敬語だよ!? 泣かすぞ!」 「ヒッ…」 ちょっと優しくなったかと思えばすぐコレだ!! 「……おい、斗織」 「はいっ!あ、いや、おう」 「返事はハイで良い。それより」 大和兄さんは唐突にケツポケットから財布を出し、五千円札を押し付けてきた。 「……小遣い?」 年玉も貰ったのに?と訊ねると、 「馬鹿か、やんねェよ」 ゴチンとやられた。容赦ねェ…… 「プリン買ってこい」 「子供たちのか?三連ので…」 「俺のだ。高ェの買ってこい。近くのコンビニで売ってんだろ、焼きプリン」 オイオイ、父親……… 「子供たちのは?」 「ガキ共のもテメェの分も、欲しけりゃ勝手に買ってこい」 つまり、俺にも奢ってくれるってことか? 大和兄さんの分と、子供3人分に、俺の分……と、芽衣さんのもいるだろうし、そしたら伯父さんとこの孫の分も…… 結局幾つ買ったらいいんだ? 「斗織、兄さんの分も買ってきてくれる?」 笑顔で俺の持つ五千円札をツンと突付いた一也兄さん。 途端、大和兄さんは渋い顔になる。 「…んで兄貴の分まで俺が出すんだよ」 「クリームが乗ってるのがいいな」 「ってオイ!せめて遠慮して一番安いので良いとかねェのかよ」 「あ、やっぱり抹茶プリンにしよう。あんことホイップクリーム付きの」 「ザケンな!なら俺のはケーキ屋行って買って来い!」 ……面倒くせェ。 「斗織テメェ、今面倒くせェとか思っただろ」 「イダ…ッ!」 またボカリとやられた。 「ああ、こら大和。かわいい弟のことを虐めない。斗織、僕も一緒に行くよ」 そろそろこの場に居続けるのにも疲れたしね、と小声で零すと、一也兄さんはよっこいしょ、と和座椅子から立ち上がった。 倣って腰を上げると、母さんに目敏く呼び止められる。 すかさず、大和兄さんが口を挟んだ。 「ああ、斗織には私の遣いを頼んだんですよ。一也兄さんはその付き添いです」 「……そうですか」 母親は黙り込み、そっと目を伏せる。 納得したわけじゃない。大和兄さんが恐いから言い返さないってとこだ。 「行ってきます」 一也兄さんと2人、どこか重苦しい空気漂う部屋を後にする。 「大和はまったく…素直じゃないね」 長く伸びる真っ直ぐな廊下。 くすりと笑った一也兄さんの顔を見ると、ん?と見返される。 「分からない?」 頷くと、苦笑された。 「遼君から連絡来てるんだろう? チェックして、返信なり電話なり…、その時間をくれたんじゃないかな、大和は」 「大和兄さんが?」 そんなに気が利く人か?あの大和兄さんが? 「僕も寿也君に電話するから、斗織も遼君にしてあげたら?」 靴を履き終えた兄さんが、玄関を開きながら振り返る。 「……ああ、そうさせてもらう」 スマホを忍ばせた懐に手を入れる。 つい力の抜けてしまった口元は、無意識のクセして嫌でも自覚しちまうくらいに、デレデレと弛みまくっていた。

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