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第313話 男って
ダイニングテーブルの上で、斗織がレタスを千切ってる。
俺はクッションで寝そべりながら、その様を見つめてる。
斗織はかなり大きいままのレタスの葉っぱをサラダ用のボウルに入れると、今度はまな板の上にきゅうりを置いて包丁を構える。
見えないとこで使っちゃダメって言ってあるから、まな板もダイニングテーブルに置いて、こっち向きで。
慣れてない手つきがちょっと恐い。
けど、そんなところが大分可愛い。
太ももに斗織のを挟んでさんざ擦られた後、体力切れでグッタリしちゃった俺に、
斗織はどうやら「ヤりすぎた!」と反省したらしい。
「たまにはメシぐらい俺が作る」
勇んでスーパーまで行こうとするから、冷蔵庫の中身使っていいから、と慌てて引き止めた。
せっかく一緒にいるのに1人で出掛けられちゃったら淋しいし、そもそも『反省』なんていらない。
それに、暫く休めば体力戻るし、と、
「俺作れるから大丈夫だよ」
そう伝えれば、
「明日もあるんだからゆっくりしてろ」
明日も……致すつもりらしい。
欲望に忠実なお方だ。
斗織はこっちに体を向けながら、まずはサラダの準備中。
「遼、ドレッシング何処だ?」
サラダボウルに厚めにスライスされたキュウリと歪に切られたトマトを乗せると、冷蔵庫の中を確かめながら訊いてくる。
手を切らなかったことにホッとひと安心。
「うち、ドレッシング買ってないんだ。その都度作ってるから。あ、その上のブルーの蓋のプラ容器に入ってるお豆も使っていいよ」
「は?ドレッシングって作れんのか!?」
「作れるよ。俺、作ろうか?」
「………いや、俺が作る。調合教えろ」
……そんな不安そうな顔して、調合って……。
見てるこっちが不安になっちゃうから。
斗織が計量スプーンでドレッシングボトルに量り入れるのを待って、一つ一つ材料と量を教えていく。
はっきり言って、俺が目分量でやっちゃった方が早いんだけど、斗織の真剣な表情が格好良いので、今はただ純粋にそれを楽しむ時間とする。
「あー…としたら、アレも無ェのか」
冷蔵庫から取り出したうどんを片手に眉を顰める斗織。
「麺つゆ?」と訊けば、難しい顔をして頷いた。
「かけうどんのおつゆはね、だし汁と砂糖、お醤油、お酒…」
「待て!量が分かんねェ」
「いつも目分量だからなぁ。俺作ろうか?」
「俺がやる!」
なんだか小学生の息子相手にしてるみたい。
「じゃあ、ネットで調べてみるとか」
「ああ、そうだな」
うどんの袋をテーブルに置いて、真剣にスマホを弄り出す斗織。
まったく、今日は何なの。可愛いの大安売りの日か!
「あ、かけうどんのつゆ、関東風で調べてね。俺、濃口醤油の甘いつゆ派だから。斗織もそうでしょ?ずっとこっちの人だし」
「こいくちしょうゆ??」
「関西風だと薄口醤油を使うんだって。ほら、関西のつゆって茶色くないでしょ? 薄口は濃口より色が薄いんだよ。一応どっちもあるけど、関東風の甘いのがいいから濃口の方使ってね。おっきいボトルの方」
「あ…ああ、こいくち…な。こっちの醤油って甘いのか…?」
ちがうちがう。つゆに砂糖入れるから甘くなるんだってば。
「おっきいボトルの方……」
いつもは「デッケェ」とか言う斗織が、「おっきい」って言ってる…!
ナニこの可愛い人っ!!
そうして斗織が作ってくれたお昼ごはんは、月見うどんに、ミックスビーンズと生野菜のサラダ。それに、切って冷蔵庫に仕舞っておいたお漬物を添えて。
初めてにしちゃ上手く出来てっだろ、と自信に満ちた顔を向けてくるだけあって、うどんの茹で加減、つゆの味もなかなかのものだった。
すっごく美味しい!って喜んで見せれば、「また作ってやるよ」なんて満更でもない様子。
……だけどね、主婦の皆様が良く言ってる話。
理解した。
───キッチンの流しとガスコンロの上には、使ったままの包丁やら鍋やらが、置き去りに………
普段料理しない男ってさぁ!……って、俺も男なんだけど!!(大切なことだから何度だって言う!)
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