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第314話 初仕事

俺は今、猛烈に緊張している。 冬休みが明け、初めの木曜日。 武家屋敷の一画、離れの羽崎家。 生まれて初めてのアルバイト初日 in 生まれて初めて出来た恋人のお兄さんのお家。 そんな訳で、 ───俺は今、猛烈に緊張しているぅっ!!(c ラ○ネス) 「こんにちは、先生。今日からよろしくお願いします」 「こっ、こちらこそ、よろしくお願いしますっ」 俺よりよっぽどしっかりしてる征二くんと挨拶を交わして、いざ勉強を始めたんだけど…… 征二くんは今、4才。 小学校受験に向けて勉強をしているそうだ。 受験用の塾に通って、自宅でも塾の予習復習と、家庭で出来るお勉強をしているらしい。 俺が見るのは、勿論家庭での勉強分。 自宅用テキストと、塾の予習。 前にも思ったけど、征二くんはとっても賢い子で、教えた事に対する理解力、記憶力も高いから、俺が教える意味があるのかなって思うくらいスムーズに進む。 お父さんの大和さん…大和お兄ちゃんがそうだったらしい。 授業だけは真面目に受けてたけど、試験勉強は殆どやらずにトップクラスの成績取るんだから、懸命に試験勉強してるこっちから見りゃやってらんねーよなぁ……。とは、マナちゃん先生の話。 征二くんの勉強中は、弟の侑士くんと妹の真衣ちゃんは1階に下りてくれてる。 征二くんはとっても礼儀正しい子だけど、侑士くんはちょっとヤンチャだ。 初めて会った日に、マナちゃん先生から「こちら、りょー君。斗織兄ちゃんのお姫様な」って紹介してもらった時、 「クンなのにおひめさまって、りょーくん どっちだよ?」 不思議そうに股間をムギュってされたのは、未だ記憶に新しい。 マナちゃん先生に叱られたら、「だってオッパイにはとどかねーだろ」って。 ……いや、もし届いたとしても、いきなり女性の胸揉んだりしたらダメだからねっ! 男の股間だって勿論ダメだけど! マナちゃん先生曰く、「侑士は大和の生き写し」だそうだ。 「遼君、征二、ご飯が出来たからそろそろ下りてこられる?」 ノックの後、扉の外から芽衣さんの声がした。 「あ、はい。そろそろキリがいいのですぐに行きます」 「は~い。征二、ちゃんとお片付けしてからいらっしゃいね」 「はい」 お父さんが恐いからかな?一番お兄さんだからかな? 実の親にまで「うん」じゃなくて「はい」の征二くん。 ほんと、礼儀正しくて良い子で可愛い。 週一じゃ、3月まで10回ぐらいしか会えないけど……もっと仲良くなれたらいいな。 味方になって欲しい、なんて、そんな打算じゃなくて、斗織の可愛い甥っ子なんだもん。 せっかく先生と生徒になれたんだ。 親や兄弟、友達や幼稚園の先生に言えないようなことでも話せるような存在になれればな…なんて。 テキパキと片付けを進める征二くんを見ながら、そんな事を思った。

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