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第319話 格好良いの禁止

羽崎家の敷地内。 門へ向かう途中の、青々とした葉を茂らせるイロハモミジの木の向こう側。 何やらざわついてることに気付いて、俺と斗織の手は自然と離れた。 「……ヤベ、忘れてた」 呟いた斗織の目線を追うと、茶室と思われる平屋から出て来た着物の女の子と目が合った。 俺達と同世代……かな? 会釈をすると、彼女も軽く頭を下げる。 中から出て来たのは1人じゃなくて、後から何人もの女の子が続く。 和装より洋装の子がちょっと多い。制服の子もちらほら。 「高校生のお弟子さんだ。門は別だから気にしないでいい」 そう言うと斗織は、俺を隠すみたいに左側に移動した。 斗織の言う通り、彼女たちは玄関から出るとすぐに俺達とは別の方向へと向かって行く。 「高校生のお教室の先生は母親じゃねェから、緊張しなくていいからな」 ぎゅっと握りしめちゃってた掌を開かせると、斗織はまた俺と手を繋いでくれる。 「……いいの? 見られちゃうかも」 「見られて困る付き合いはしてねェよ」 男らしく言い切って、手に力を込めた斗織。 ───かっこいい!! きゅんってして見上げると、ちょっと気まずそうに目を逸らし、 ……母親は別として……、と小さく続けた。 ちょっとかっこ悪い? ノンノン。こう言うのは、ちょっと可愛いって言うんです! 時々弱い所を見せられちゃうと、俺が守ってあげなきゃ! って。男の俺にある筈の無い母性がきゅ〜んって擽られる。 あぁ…格好良くて可愛いとか、皆にバレたら益々モテちゃうから、可愛いのは俺の前だけにしておいてくれないかなぁ。 「───あら、そちらにいらっしゃるの、羽崎先生じゃないですか?」 「っ───!!」 ……やっぱり、格好良いトコ見せるのも俺以外には禁止!!

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