323 / 418

第323話 失いたくないもの

「実は…………週末、リクトん家に泊まりに行った」 「うん……?」 「前から結構行ってんだけどな…」 俺たち仲良しなんだぞ! って報告……ではない気がするんだけど……… いまいちリューガくんが何を言いたいんだか分からない。 「で、いつもはリクトが風呂入ってん時、リクトの母ちゃんと話したりしてんだけどさ、そん時は友達と飲み行っちゃって居なかったから、俺リクトの部屋で待ってたワケだよ、1人で」 「一緒にお風呂入っちゃえばいいのに」 「えっ、それは流石に恥ずかしいよ! ねっ? りゅーがくんっ」 「じゃなくて! もー、どーしてリョーちん、そう積極的なんだよーっ」 見た目に似合わずオープンエロ、って怒られた。 エロとかじゃなくて、一緒に入った方が別々より絶対楽しいのに。 いっぱい甘やかしてもらえるし。 級長だって絶対! リューガくんの頭とか洗ってあげたいって思ってるよ。 「だから、問題は風呂じゃなくてな、……俺、ヒマだったんだよ」 スマホアプリにも飽きたし、リクトの部屋テレビもゲームもねーし、と1つずつ指を曲げては暇な理由をあげていく。 「んで、部屋ン中物色してたらさ、教科書の並びに見慣れねー細い背表紙があって……」 あ……、なんか分かった気がする。 「りぅがくん、その細い背表紙の漫画、勝手に読んじゃったんだ」 「へっ!? リョーちん、なんでそれがマンガって分かんの!?」 「だって俺、その本きぅちょうから借りたことあるもん。参考にって」 「マジで!?」 「その漫画って、なんか特殊なものなの?」 存在を認識してる俺と、知ってしまったリューガくんと。 俺達の会話に付いて来られないひろたんが、不思議そうに訊ねる。 こんな純粋なひろたんに話しても良いものか……。 でも、ひろたんも中山と付き合ってるんだし、そしたらやることもやって……はいないかもしれないけど、中山はそういう事もしたいよねぇ。 果たして知らせて良いものか。 中山に訊いてからの方がいいんだろうけど……。 リューガくんも、俺だけ呼び出せば良かったものを。 「リョーちんもああ言うの読んでんのか!? 男と男がガッツリエロいことヤッてたんだけど!!」 「えっ………!! ~~~っっ?!」 俺が考え事を巡らせてて、止めるのが遅くなったのがいけなかった訳じゃないと思いたい。 リューガくんが必死なのもまあ理解できるし、ひろたんの真っ赤な顔も予想の範疇。 で、級長も見られたくないなら隠しておけば良かったんだから、別に見られても困らないって判断だったんだろう。 ……だからって、俺に尻拭いさせるのはどうなんですかね、師匠。 知らないよ、俺。 もう全部ぶっちゃけちゃうからね! 「えーっと……、簡単に言うと、きぅちょうは男同士の恋愛に理解がある人なんだよね」 「……お、おう………」 「もっと言うと、興味があると言うか……、分かりやすく言うと、男同士の恋愛モノをBLって言うんだけど、それを読むのが好きな、腐男子……?」 「ふだんし……ってなんだそりゃ?」 「女の子だと腐女子で、男だと腐男子、と言うらしいです」 首を傾げるリューガくんの隣で、ひろたんが何かに気付いたように、あっ!と声を上げる。 「だから嵯峨野くん、クリスマスパーティの時、僕たちに膝枕してって言ったんだ」 ……ご明察。 「えっ、じゃあアレもか? リョーちんと斗織の写真撮ったり動画撮ったり」 「……ああ、アレも趣味の一貫だよね…」 ひろたんと中山の告白シーンもバッチリ撮ってたしね。 「あっ! じゃあアレ! 俺の膝枕は要らなかったってことか!?」 それは違う違う。 それは別次元で、級長喜んでたから。 「……なあ? その、フダンシってヤツってことは、リクトも男が好きなのか?」 「え? どうなんだろ? 偏見は無いと思うけど、どっちが好きなのかってのは訊いたこと無いから」 「必ずしも男が好きってワケでもねーのか……」 眉間にシワを寄せて思案に耽るリューガくん。 一体なにを思ってるんだろう……? 「え…と……、りゅーがくんは……、嵯峨野くんにそれ、訊いて………どうするの……?」 ひろたんがそう不安気に訊ねる理由は、ひろたん自身の恋愛対象が男だからなんだろう。 俺もリューガくんに嫌がられてたら……って最初すごく不安だったから、その気持ち、よく分かる。 せっかく出来た友達に、そんな理由で嫌われたくない。 だけど、恋人だって失いたくない。 どっちも諦めたくなんて無いんだ……ほんとは。

ともだちにシェアしよう!