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第323話 失いたくないもの
「実は…………週末、リクトん家に泊まりに行った」
「うん……?」
「前から結構行ってんだけどな…」
俺たち仲良しなんだぞ! って報告……ではない気がするんだけど………
いまいちリューガくんが何を言いたいんだか分からない。
「で、いつもはリクトが風呂入ってん時、リクトの母ちゃんと話したりしてんだけどさ、そん時は友達と飲み行っちゃって居なかったから、俺リクトの部屋で待ってたワケだよ、1人で」
「一緒にお風呂入っちゃえばいいのに」
「えっ、それは流石に恥ずかしいよ! ねっ? りゅーがくんっ」
「じゃなくて! もー、どーしてリョーちん、そう積極的なんだよーっ」
見た目に似合わずオープンエロ、って怒られた。
エロとかじゃなくて、一緒に入った方が別々より絶対楽しいのに。
いっぱい甘やかしてもらえるし。
級長だって絶対! リューガくんの頭とか洗ってあげたいって思ってるよ。
「だから、問題は風呂じゃなくてな、……俺、ヒマだったんだよ」
スマホアプリにも飽きたし、リクトの部屋テレビもゲームもねーし、と1つずつ指を曲げては暇な理由をあげていく。
「んで、部屋ン中物色してたらさ、教科書の並びに見慣れねー細い背表紙があって……」
あ……、なんか分かった気がする。
「りぅがくん、その細い背表紙の漫画、勝手に読んじゃったんだ」
「へっ!? リョーちん、なんでそれがマンガって分かんの!?」
「だって俺、その本きぅちょうから借りたことあるもん。参考にって」
「マジで!?」
「その漫画って、なんか特殊なものなの?」
存在を認識してる俺と、知ってしまったリューガくんと。
俺達の会話に付いて来られないひろたんが、不思議そうに訊ねる。
こんな純粋なひろたんに話しても良いものか……。
でも、ひろたんも中山と付き合ってるんだし、そしたらやることもやって……はいないかもしれないけど、中山はそういう事もしたいよねぇ。
果たして知らせて良いものか。
中山に訊いてからの方がいいんだろうけど……。
リューガくんも、俺だけ呼び出せば良かったものを。
「リョーちんもああ言うの読んでんのか!? 男と男がガッツリエロいことヤッてたんだけど!!」
「えっ………!! ~~~っっ?!」
俺が考え事を巡らせてて、止めるのが遅くなったのがいけなかった訳じゃないと思いたい。
リューガくんが必死なのもまあ理解できるし、ひろたんの真っ赤な顔も予想の範疇。
で、級長も見られたくないなら隠しておけば良かったんだから、別に見られても困らないって判断だったんだろう。
……だからって、俺に尻拭いさせるのはどうなんですかね、師匠。
知らないよ、俺。
もう全部ぶっちゃけちゃうからね!
「えーっと……、簡単に言うと、きぅちょうは男同士の恋愛に理解がある人なんだよね」
「……お、おう………」
「もっと言うと、興味があると言うか……、分かりやすく言うと、男同士の恋愛モノをBLって言うんだけど、それを読むのが好きな、腐男子……?」
「ふだんし……ってなんだそりゃ?」
「女の子だと腐女子で、男だと腐男子、と言うらしいです」
首を傾げるリューガくんの隣で、ひろたんが何かに気付いたように、あっ!と声を上げる。
「だから嵯峨野くん、クリスマスパーティの時、僕たちに膝枕してって言ったんだ」
……ご明察。
「えっ、じゃあアレもか? リョーちんと斗織の写真撮ったり動画撮ったり」
「……ああ、アレも趣味の一貫だよね…」
ひろたんと中山の告白シーンもバッチリ撮ってたしね。
「あっ! じゃあアレ! 俺の膝枕は要らなかったってことか!?」
それは違う違う。
それは別次元で、級長喜んでたから。
「……なあ? その、フダンシってヤツってことは、リクトも男が好きなのか?」
「え? どうなんだろ? 偏見は無いと思うけど、どっちが好きなのかってのは訊いたこと無いから」
「必ずしも男が好きってワケでもねーのか……」
眉間にシワを寄せて思案に耽るリューガくん。
一体なにを思ってるんだろう……?
「え…と……、りゅーがくんは……、嵯峨野くんにそれ、訊いて………どうするの……?」
ひろたんがそう不安気に訊ねる理由は、ひろたん自身の恋愛対象が男だからなんだろう。
俺もリューガくんに嫌がられてたら……って最初すごく不安だったから、その気持ち、よく分かる。
せっかく出来た友達に、そんな理由で嫌われたくない。
だけど、恋人だって失いたくない。
どっちも諦めたくなんて無いんだ……ほんとは。
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