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第327話 静馬からのお願い

「遼、スマホ鳴ってる」 いつものように3人分、夕飯の支度をしてたら斗織に呼ばれた。 「電話ー?」 包丁を使ってるから、振り返らずに訊ねる。 「いや、なんかの受信ぽい」 「じゃあ父さんかな? 見てもらっていい?」 「ああ。やっぱりLimeだっ…た……」 頷いて、俺のスマホをチェックしてくれた斗織が、急に言葉を途切らせた。 「斗織?」 「どうしたの?」 黙り込んだ斗織の元まで出向いて訊ねれば、ここに座れと言うように膝の上に抱き込まれた。 「エプロン、エロい」 何言ってんだ、この人。 「太もも、丸出しだな」 「ショーパン穿いてるからね」 「噛んでいいか?」 「普通にダメでしょ。はい、スマホ頂戴。父さん、なんだって?」 なんでか不機嫌そうな表情の斗織。 渋々と差し出されたスマホ。 画面に映しだされたメッセを見て、その全ての理由が理解できた。 「ああ、父さんじゃなくてしーくんからだ」 ご機嫌取り……でも無いんだけど、振り返って、眉間のシワにキスをする。 「恐い顔してる」 唇にもキスを落とすと、斗織はやっと顔の筋肉から力を抜いてくれた。 しーくんからのメッセは一言。 『バレンタインのチョコくれ!』 本当は女の子に送ろうと思ってたところ、間違って俺のとこに来ちゃったとしか思えない。 『これ、俺宛てじゃないだろ?』 送り返すと、すぐに返信が来た。 『りょーじ宛てで間違ってねーっつの!』 えー? なんで男にこんなの送ってきてんの? しーくん、確か彼女いたよね? 『彼女にお願いして下さい。』 『別れました。゚(っω`c)゚。』 『だからって男友達に頼む?』 『男友達とかじゃなくて  りょーじがいいの!Щ(oДoщ)クレ』 『俺恋人出来たから、今年からカレシと父さんにしか贈んないもん。  貰うのも母さんとお姉ちゃんだけー。』 あっ、でもお世話になってるから、お兄ちゃんにも贈った方がいいのかな? それと征二くん。……に渡すんなら侑士くんにもか。 『そこをなんとか!(●≧д≦人)』 ……なんでこの人こんなに必死なんだろう……。 「とぉる~?」 多分俺を抱っこしてメッセの遣り取りを見ているであろう斗織を振り返る。 どうしようね、これ? あげた方がいいのかな? そう訊こうと思ったんだけど……… 「遼、コイツに会わせろ」 「───っ!?」 ……あらまあ、恐い顔。 一瞬息が止まったじゃんか。 「……会ってどうすんのー?」 「遼は俺んだって牽制する」 「そんなことしなくても、正月に会った時も、“幸せにな”って言ってくれたよ?」 「いや、今になって未練が噴き出して来たのかもしんねェし」 「未練って………友達だから。しーくん、ただの幼馴染だから」 「いや。お前見て惚れねェ男はどうかしてる」 …………いや、斗織のその考えがどうかしてるんだと思うよ。 だけどまあ、そう言ったとこで聞きゃあしないんだろ? ……仕方ない。 『今、恋人と一緒にいるんだけどね、俺の斗織がしーくんと会いたがってまーす。』 斗織が喧嘩腰なの気付かせちゃ引かれるから、なるべく軽く聞こえるように言葉を選んだ。 すぐに既読が付いて、だけど返信がピタリと止まる。 待ってる時間も勿体無いから、スマホを預けてキッチンスペースに戻った。 勿論、Limeが来ても勝手に返信しちゃダメだよ、って斗織に釘を差して。

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