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第336話 チョコレート
数分後、王子様はお皿にケーキで山を作って戻ってきた。
色々混ざっちゃってるけど気にしないみたい。
腹に入れば一緒だ、って。男らしい。けど、彼の味覚は確かだろうか。
斗織は右手に持った、ゼリーやあんみつなんかを入れる用の小さな器を、トンとしーくんの目の前に置いた。
覗いてみると、中にはチョコレートケーキが。
「バレンタイン、誰にも貰えなくて可哀想だからソレやる」
わぁ、やさしい!
───と思ったのは俺だけみたいだ。
「ちょっ、貰えるっての! 俺、女友達多いよ!?」
「オンナにフラレたばっかなんだろ、可哀想に」
「ちがっ……俺から別れてくださいって言ったの!」
「どっちにしろ遼からは渡さねェからな。それ食っとけ。可哀想に」
ニヤリと笑って顎でチョコレートケーキを差す斗織。
……なるほどね。優しさじゃなくて、牽制してたのか。
執拗に「可哀想」を繰り返した斗織は、プンスカしてるしーくんにはもう興味無いと言いたげに、視線を逸らしてケーキにかぶりついた。
「……わぁっ」
「?……んだよ?」
「なんでもなぁい」
ピンクのシフォンケーキを食べる斗織。
似合わないけど、かわいい!!
写真撮りたいけどきっと怒るから、心のアルバムに焼き付けておこう!
さてさて、俺もケーキ再開~。
自分のお皿に目を戻してふと、どのケーキだかから零れ落ちていた小さないちごチョコを見つけた。
「しーくん、これ…」
指先でつまみ上げて、顔を上げたしーくんを見て。
……あ、違うな。
これ、ダメなやつだ……と、思いとどまる。
「……は、やっぱりダメなので、チョコは諦めてください」
俺も1個くらいはあげた方がいいのかな、とも思ったけど……。
俺はしーくんにごめんなさいして、同じようにこっちを見てた斗織の口元に、指で摘んだチョコを寄せた。
唇に触れたピンクのハート。
こんなのしーくんに渡したら、斗織が勘違いしてショック受けちゃうかもしれない。
斗織は素直に口を開くと、甘いハートをパクリと喰んだ。
俺の手首を掴むと、溶けたチョコのついたピンクの指先をペロリと舐めとる。
「ありがと」
「おう」
「……………はっ!? いやいやいやっ、そこでありがとうオカシイからっ!」
「え?」
「は?」
「やだもうこの人たちっ!! なんなのもうっ?!」
どうしよう……!
しーくん、オネエになっちゃった…!!
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