336 / 418

第336話 チョコレート

数分後、王子様はお皿にケーキで山を作って戻ってきた。 色々混ざっちゃってるけど気にしないみたい。 腹に入れば一緒だ、って。男らしい。けど、彼の味覚は確かだろうか。 斗織は右手に持った、ゼリーやあんみつなんかを入れる用の小さな器を、トンとしーくんの目の前に置いた。 覗いてみると、中にはチョコレートケーキが。 「バレンタイン、誰にも貰えなくて可哀想だからソレやる」 わぁ、やさしい! ───と思ったのは俺だけみたいだ。 「ちょっ、貰えるっての! 俺、女友達多いよ!?」 「オンナにフラレたばっかなんだろ、可哀想に」 「ちがっ……俺から別れてくださいって言ったの!」 「どっちにしろ遼からは渡さねェからな。それ食っとけ。可哀想に」 ニヤリと笑って顎でチョコレートケーキを差す斗織。 ……なるほどね。優しさじゃなくて、牽制してたのか。 執拗に「可哀想」を繰り返した斗織は、プンスカしてるしーくんにはもう興味無いと言いたげに、視線を逸らしてケーキにかぶりついた。 「……わぁっ」 「?……んだよ?」 「なんでもなぁい」 ピンクのシフォンケーキを食べる斗織。 似合わないけど、かわいい!! 写真撮りたいけどきっと怒るから、心のアルバムに焼き付けておこう! さてさて、俺もケーキ再開~。 自分のお皿に目を戻してふと、どのケーキだかから零れ落ちていた小さないちごチョコを見つけた。 「しーくん、これ…」 指先でつまみ上げて、顔を上げたしーくんを見て。 ……あ、違うな。 これ、ダメなやつだ……と、思いとどまる。 「……は、やっぱりダメなので、チョコは諦めてください」 俺も1個くらいはあげた方がいいのかな、とも思ったけど……。 俺はしーくんにごめんなさいして、同じようにこっちを見てた斗織の口元に、指で摘んだチョコを寄せた。 唇に触れたピンクのハート。 こんなのしーくんに渡したら、斗織が勘違いしてショック受けちゃうかもしれない。 斗織は素直に口を開くと、甘いハートをパクリと喰んだ。 俺の手首を掴むと、溶けたチョコのついたピンクの指先をペロリと舐めとる。 「ありがと」 「おう」 「……………はっ!? いやいやいやっ、そこでありがとうオカシイからっ!」 「え?」 「は?」 「やだもうこの人たちっ!!  なんなのもうっ?!」 どうしよう……! しーくん、オネエになっちゃった…!!

ともだちにシェアしよう!