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第338話 有りがちな展開

トイレから帰ってきたら、斗織としーくんが仲良さげに話してた。 良かった……。 斗織が喧嘩売ったらどうしようって思ってたけど、そんな心配いらなかったみたいだ。 やっぱりさ、大切な恋人と大切な幼馴染は仲が良いほうが断然嬉しい! しばらく2人の様子を微笑ましくこっそり見守っていたけど、そろそろ戻らないと心配するかな? お腹壊して篭ってるんだと思われたら恥ずかしいし。 と、脚を踏み出した時だった。 「お二人ですかぁ?」 先越された───!! なんて有りがちなんだ! BLでよく見る展開だ! うちのイケメンと、ついでに幼馴染の金髪に忍び寄る、ブリッブリの女性達。 イレギュラーなのは、その2人が顔無しのモブじゃなくて、モデル級の美人で、俺よりも長身でスタイルが良いってこと。 ズルイ! それでも斗織は絶対欠片も靡かないだろうけどさっ。 背が高いのズルイ!! きっと2人は今しがた店に入ってきたところなんだろう。 だって俺、どっちかが取りに行ってる以外はずっと斗織の傍にいたもん。 お二人ですか? って、そんなわけ無いじゃん! そこにあるの、俺のグラスと俺のお皿!! 「3人ですけど?」 ツカ──と彼女達をすり抜けて椅子に座る。 「え?」 「え…と…、どっち?」 どっち、って、どういう意味じゃい!? 「お姉さん達、俺のカレシと友達に、何か用ですか?」 「え…? 俺?」 「……カレシ?」 顔を見合わせるお姉さん達。2人して目をパチクリさせる。 「そう。コイツ男だけど俺の恋人だから、ナンパならヨソでやるか、こっちの金髪だけにしてくれ」 彼女達にそう断り文句を告げながらも斗織の視線は俺に向いていて……。 可笑しそうに目を細めると、気付かず尖ってしまっていたのか、俺の唇を指先でパクッと摘んだ。 「どうした? 機嫌悪ィのか?」 むにゅむにゅってした後、徐ろに顔を近づけてくる。 コツンとおでこが触れ合うと、周囲からキャーッ! と黄色い悲鳴が上がった。 何処かに腐女子の方々がいるみたい。 「場所考えてイチャつけよ…」 呆れたような声の主は、勿論しーくんだ。 「……あのー、悪いんですけど俺も、お姉さん達よりりょーじ(このこ)のが可愛いんで、遠慮してもらえますか? っつかお前ら! こんなトコでキスとかすんなよ!」 「しないよっ!」 「チッ…」 気のせいか、斗織の舌打ちが聞こえたような……。 いやいや、気のせいっ! 流石にこんな人前じゃしないし! 「しーくん…、もし俺に気ぃ遣ってるんだったら、気にせず行って良かったんだよ」 彼女達が去ってから声を掛ければ、しーくんはちょっと嫌そうに眉を顰め、俺に視線を合わせた。 「今俺、りょーじと遊んでんの。2人のデート見学に来てんじゃないだろ? わかる? りょーじととーる君と、3人で飯食ってんのさ。  大体俺、ナンパ慣れしてる女嫌いなんだよ。ナンパで引っ掛けた男となにすんの? 4P? あーゆう女はぜってービッチ。遊び相手が欲しいならヤリチンに声掛けろってーの」 文句を言いながらコーラを飲み干して、よっしゃ行くか、と立ち上がる。 「それから、アイツらよりりょーじのが可愛いってのも、本心だからな!」 「俺、斗織以外の男に可愛いって言われても嬉しくないんだけど!」 ビシッと突き付けられた指先をすかさずはたき落とすと、しーくんは一瞬ショックを受けたような表情を見せた。 だけどその後にすぐ、わざとらしくシクシクと掌で顔を隠すと、椅子の上に崩れ落ちたのだった。

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