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第339話 お料理教室
バレンタイン前日、日曜日。in 俺の家。
リューガくんとひろたんと3人で、この前買った材料とラッピング用品を持ち寄って、バレンタインの準備中。
………なんだけど……
「おっ、かわい~ねぇ、三人ともこっち向いて! はいチーズ…って若い子は今時、チーズって言わねーか」
楽しそうにスマホのカメラアプリでエプロン姿の男子高生を撮影する、27歳男性。
職業、高校養護教諭。
「ひろた君、見て見て、うさ耳~。天使と悪魔もあるよ。次ドレがい? ねこ? ねこ?」
「あ…の……マナちゃんせんせぇ……」
楽しそうなマナちゃん先生相手に、ちょっと邪魔だからあっち行っててとは言い辛い。
優しいひろたんは、困ったように見返すだけで精いっぱいだ。
「マナちゃん先生、斗織が暇してて可哀想だから、相手してあげてもらっていいですか?」
ベッドに転がって退屈そうにテレビを観てる斗織に聞こえないようコソッとお願いすると、マナちゃん先生は「オッケー♪」と機嫌良さそうにスキップさながら軽い足取りで斗織に近づいていった。
「おい、見ろよ斗織。りょー君の写真撮っちった。これ可愛くね?」
「はっ? なに勝手に撮ってんだよ。俺のスマホに転送してそっちのデータ削除しろ」
「やーだね。ほら、こっちも見ろって。リューガもひろた君もかわい~の!」
「マメのなんざ見たってしょーがねェだろ。あと、高原のは中山に送る必要ねェからな」
「うわっ、ケチくさ」
バレンタイン当日は月曜日。
前日に作ろうって約束したけど、日曜日は斗織と逢う日。……って言っても、俺にとっては3月末までは毎日斗織に逢う日なんだけど。
まあそんな訳で、「3人でバレンタインのチョコ作るから、その間は少し暇かもだけど大人しく待っててね」と斗織に伝えたわけだ。
言葉にはしなかったけど、2人の前でエッチなことしないでね、と、作ってる間は邪魔しないでね、って意味を込めて。
そうしたら斗織、暇だから誰か呼んでいいか?って。
級長と中山以外、と指定したら、意外と友達の少ない斗織は、マナちゃん先生を連れてきた。
今日は一也さんが仕事で、マナちゃん先生も暇を持て余していたらしい。
皆で力を合わせて作るのもいいけど、やっぱり贈り物は自分だけの手で作りたいよね!
と言うことで、調理用具にも数があるので、初めにお手本。俺が作ることになった。
「まずは、材料を全部量って用意します。それから、粉を合わせて篩う。ここ大切でーす。ダマを無くすと共に、粉に空気を含ませる意味もあるからね」
リューガくんとひろたんは「ほうほう」「うんうん」って一生懸命に俺の手元を見てる。
先生になったみたいでちょっと楽しい。
「ここら辺でオーブンを予熱…っても、1回目焼いた後なら温度保たれてると思うから、2人の時は割愛してください。次はね、湯せん用のお湯を沸かしながら、チョコレートを刻みます」
包丁で細かく刻んだチョコと、1㎝角に切ったバターをボウルに移す。
「あー…リョーちん、それ包丁じゃなきゃダメか…?」
包丁を使い慣れないリューガくんは、硬いチョコを切るのが少し怖いみたい。
「俺が刻もうか?」
だけど、手を怪我させるよりはと訊いてみれば、
「いやっ! 俺がやる!」
気合充分な様子で、首を横に振った。
「あ、じゃあ、チーズ用のおろし金があるんだけどそれ使う? 取っ手回すだけで細かくなるし。チーズより硬いから力いるけど」
「そんなのあんのか? じゃあそれ借してくれっか」
「うん」
湯せんでチョコとバターを溶かして、それから、別のボウルに割り入れた卵と砂糖をハンドミキサーで攪拌。
「りょーくんのおうちの砂糖、白くないんだね」
茶色い砂糖と混ざって、ちょっぴり茶色く色づいた卵液を見て、ひろたんが首を傾げた。
「うん。白砂糖は化学的に精白して作ってるから、抗酸化成分が無いんだって。テレビで観てから、甜菜糖に変えたんだ」
「こう…さんか……? なんだか分かんねーけど、リョーちん女子力高ぇな……」
「女子力って言うか…ね、白砂糖を摂取し続けると老化が進むとか、低血糖症とか、がんを誘発する、なんて言われたらさ、俺も一家の台所を預かる身ですから。父さんにはいつまでも元気で若く格好良くいて欲しいもんね」
「おぉっ、奥さん…!」
「マメ! 遼は俺・の! 嫁だからな!」
こっちの話を聞いてたのか、斗織が声を掛けてよこす。
てか、父さんに対抗しなくても……。
変な心配しなくたって、父さんの嫁は母さん1人だから。
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