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第340話 独り占め
生地を型に移し終えたタイミングで、予熱完了のメロディが鳴った。
オーブンに天板を入れて、スタートを押す。
「それじゃあ次は、ひろたんだね」
「うん………、がんばる!」
使い終わった用具はその都度ひろたんが洗ってリューガくんが拭いてくれたから、すぐに作業に入れる。
「遼」
ひろたんが粉を篩っているのを見守っていると、マナちゃん先生と遊んでた筈の斗織に名前を呼ばれた。
「はい、なんですか?」
「もうお前は手ェ空いてんだろ」
自分の膝をポンポンって叩いて手招き。
なんと───!!
もう自分の分は作り終えたんだからこっち来て相手しろって?
もーっ、なんて我侭なカレシ様だ!
「バカ言えトール!リョーちんは俺達の先生なんだぞ! 居てもらわなくちゃ俺が困る!」
リューガくん…! なんて可愛い生徒!!
教えてあげたい欲が刺激されちゃう!
「斗織~? 俺様発言ばっかりしてっと、りょー君に呆れられて捨てられっぞー」
からかう様ににやつくマナちゃん先生に、しかしまさかそんな言葉で斗織が慌てるわけもなく…。
自信満々の顔で笑う。
「捨てらんねェよ! 遼はヤバいくらい俺に惚れてんだからな」
「!~~~っっ」
斗織~~っ!!
そういう恥ずかしいのは2人の時だけにしてっ!!
それに何そのドヤ顔!?
可愛いんだけど!!
「あの、りょーくん…? 僕なら大丈夫だから、羽崎くんのところ行ってあげて」
え……、ひろたん…?
「いいの?」
おっきな瞳を見つめ返すと、目を細めてにっこり微笑む。
「うん。りょーくんのが焼き上がったら呼ぶね。りゅーがくんの時は傍にいてあげて」
「っ───!!!」
ひろたんが!優しすぎて眩しすぎる───!!!
こんなに可愛くて優しくて可愛い(大事なことだから二回言った)ひろたん、中山になんてやっぱり勿体無い気がする!!
もっとかっこ良くて、優しくて、大人で、守ってくれる感じの………、っ!!
いやいやそんなっ!いくらひろたんでも斗織はあげられないし!!
「ひろたん、ありがとっ」
慌ててお礼を言って、ベッドに座る斗織の胸に飛び込んだ。
「うぉっ…、どうした、遼?」
「なんでもないっ。独り占めです!」
「は?……ああ…」
分かってないような返事をして、それでも斗織は俺の頭をぽんぽんと撫でてくれる。
勝手に変なこと考えて、独占欲滾らせちゃってごめんね。
もう不安にはならないんだけど、それでも俺、斗織のこと独り占めしたい。
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