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第331話 大誤算

少し……少しだけ、ほんの5分、10分、…いや、30分程度のつもりだったんだけど─── 「───ょうじ、遼司、斗織くんの時間、大丈夫?」 「……ん……? とぉ…さん………? っ! 父さんっ!?」 30分程度の時間経過じゃまだ到底帰って来る筈のない父さんの声にガバッと飛び起きた。 「えっ、うそ! 今何時!?」 「10時少し前かな」 「うそうそっ! 斗織っ! 斗織!」 叩き起こした斗織は寝ぼけ眼でとっても可愛い。 ───じゃなくて! 「もう10時!」 「はっ!?」 「泊まってってもいいけど、明日学校あるよ」 「いや、帰る。………はっ! 聖一郎さん!!」 「こんばんは」 「こんばんはっ! お邪魔してます!」 「寝起きにひとり歩きじゃ危ないから、車で送ってくよ」 「いえ! 申し訳ないです!」 斗織は焦って断ってたけど、父さんは斗織の荷物と車のキー、それから家の鍵とお財布を持つと、 「忘れ物はない?」 素早く玄関に移動した。 「遼司は夕飯食べた?」 俺への気遣いも忘れない。 「ううん、ご飯作ってる途中で寝ちゃって、父さんのご飯も……。っ……すぐに用意するからっ」 「いや、今日は父さんが何か買ってこよう。遼司はいつも頑張ってくれてるんだから、こんな日があったっていいんだよ」 気にするなと言うように、父さんは優しい顔をして俺の頭を撫でた。 「たまにはゆっくり休んで欲しいと思ってるのに、なかなか時間を取ってやれなくて、父さんの方こそごめんね」 情けない……… 父さんはこんな時間にしか帰れないくらい、頑張って仕事してるのに。……なのに俺に気を遣って、こんな言い方をしてくれる。 ちょっぴり泣きそうになってると、父さんはまた、もっと小さい子どもにするみたいに、今度は優しく背中を撫でてくれる。 「情けなくない。そんな顔しない。遼司は良い子だ。頑張り過ぎて心配なくらいにね」 あー……、もう! 父さんかっこ良すぎるよ…っ! よく離婚して今まで独り身でいたな! 母さんはぜったい! 二度と父さんを離すべきじゃない! って、俺、今本気で心から思ってる!! 「遼司、帰りにスーパーに寄ってくるけど、何か食べたいものはある?」 「うーん……、軽いものがいいな」 「なら、サラダとおにぎりがいいかな」 「うん。じゃあ父さん、斗織のことをお願いします。気を付けていってきてね」 「うん、いってきます。斗織くん、行こう」 「すみません。よろしくお願いします」 「あっ、待って!」 父さんに続いてそのまま玄関を出て行こうとする斗織の服の袖を慌てて掴んだ。 「斗織、忘れ物」 引っ張って少し屈ませると、ほっぺに唇を押し付ける。 ちゅっとリップ音をさせて、口を離した。 「また明日ね!」 「……おう」 まだ覚醒しきれてないのか、顔をほんのり赤く染めて、いつもは余裕綽々の斗織がまるで初心な男子児童みたい。 ギャップ萌え! のわりに後ろ手を振ってオトナみたいな去り方を見せて、斗織は帰っていった。 やっぱりカッコいい……。 同じ高校生とは思えん。惚れ直す……! ───よし!取り敢えず、俺はキッチンの片付けからだ。 お肉を切った包丁とまな板が流しに置きっぱなしだ。最悪だ! 包丁とまな板を洗ってから、父さんの鞄から取り出したお弁当箱も綺麗にする。 冷蔵庫の中の肉は、明日のお弁当に回せばいい。 それと、副菜は…… 俺は軽く冷蔵庫の中身をチェックすると、お弁当のメニューへと頭を巡らせたのだった。

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