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第342話 男と男の熱い約束

バレンタイン当日。 男子も女子も朝からどこかそわそわと、学校中が落ち着かない空気で満ち溢れてる。 去年まではその空気の外側に居た筈なのに、今は俺もすっかり中の住人。 しかも、貰う側じゃなくてあげる側だって言うんだから、人生なんて何があるか分からないものだ。 まあ、幸せだからいいんだけど。 斗織と級長と中山には、それぞれ昨日のうちに連絡して、今日の約束を取り付けておいた。 『明日、渡したいものがあるから一緒に帰りたいです。  放課後、俺に付き合ってくれませんか?』 2人に付き合って目の前で送ったメッセに、斗織はLimeで『ばーか』と返すと、口に出して「遼、こっち来い」と俺を呼んだ。 「はぁい」 「はーいじゃねェよ」 言葉は優しくないけど、おでこをピンッてする指先には全然力が篭ってない。 「で、明日なんだって?」 あ……、なんかニヤニヤしてる。 俺がちょっと照れてんの悟って、意地悪しようとしてるんだ。 優しくなーい! 「明日の社長のご予定ですが、学校が終わり次第紫藤家へご帰宅して頂きます。 紫藤家ではご子息からのプレゼントを受け取り、ご一緒に手作りスイーツを召し上がって下さい。 その後、ご子息を存分に甘やかして頂き、用意されたディナーを召し上がった後のご帰宅となります。 何かご質問はございますか?」 スマホを手帳に見立て、読み上げるように伝え終えると、掛けてもない眼鏡をスチャッてする仕草。 出来る秘書の俺! みたいな。 「存分に甘やかすってトコ、存分に甘い体を堪能するに予定を変更しとけ」 「はわわっ…、エロ社長っ!」 「誰がエロ社長だ」 コツンと頭を小突かれた。 なんだろ、この人…… 軽く握られた拳から、愛情が滲み出ちゃってますよ~…… なんか、嬉しいけど……ちょっと恥ずかしいな……。 チラッて見上げると苦笑して、頭をポンポン撫でてくれた。 ………抱き着きたいけど、今日は我慢。 リューガくんとひろたん、マナちゃん先生もいるし、それに…… せっかくのイベント事なんだから、明日に取っておこう! 「明日、よろしくお願いします」 頭を下げると斗織は噴き出し気味に、「おう」と返してくれた。 「遼、それから、……あー~、お前……」 「ん?」 さっきまで笑ってた筈の顔が歪む。 眉間にシワが寄っちゃって、難しいかお。 「どうしたの?」 「どうもしねェけど、明日……お前……」 「1日中、斗織と一緒のご予定ですよ」 「それは分かってんだよ。じゃなくて、……誰からもチョコ受け取んなよ」 「え……?」 「だから、俺も……まあ身内からなら仕方ねェけど、お前も…沙綾さんぐらいからしか受け取んな」 うん…と……? それって………? んん~?? 「俺にチョコくれる子なんて居ないだろ? 女友達も居ないし、そもそも、俺のこと好きになる女の子なんて居ないって、斗織が言ったんじゃん」 「いや、世の中、可愛い男が好きな女ってのもいるらしい。級長から聞いた」 ……真剣な顔して、何を言い出したんだこの人は。 「いても貰わないし。俺の恋人ヤキモチ焼きだもん。斗織こそモテるんだから、大切な遼ちゃん泣かさないよう気を付けなよねー」 「……どっちがヤキモチ焼きだ」 「聞えないように言ってくれます!?」 暫く言い合いを続けていたら、マナちゃん先生に「どっちもどっち」って呆れられちゃったけど…… 兎に角俺たちは、絶対誰からもチョコを貰わないって熱い約束を交わして、今日この日を迎えたのだ!! そんな訳で決戦当日、訪れた放課後─── 机の上に置かれた7つばかりのプレゼント(チョコレート)を前に、俺たちは途方に暮れていた………

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