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第344話 姉御
スネちゃった……?
そっぽを向いた斗織の顔の前に回り込む。
……逸らされた。
もう一回、と目を合わせようとすれど、また逸らされる。
「ん~~?」
どうすればこっちを向いてくれるのかな……?
唸りながら考えていると、背後から肩をポンポンと叩かれた。
級長、日直の仕事終わったのかな?
待ち人が戻ってきたのかと振り返れば、そこには眼鏡の腐男子伯爵──ではなく、クラスの女子の一人がなんとも言えない表情で立っていた。
「ずっと声掛けようと思ってたんだけどさ、2人のイチャイチャが止まらなくてタイミング掴めなかった」
「え……と…それは……すみません……」
そんなイチャイチャしてるつもり無かったんだけど………、なんだろコレ、恥ずかしい……。
「でさ、それ置いたのアタシなんだけど」
「え? ソレって…これ?」
机の上のプレゼントを指差して訊ねると、頷いて肯定された。
ショートカットでボーイッシュ……と言うより青年的な彼女は、あんまりバレンタインデーにチョコを渡すタイプには見えない。
寧ろ、後輩女子からマジチョコ貰っちゃいそうな……って、偏見か。
「部活の後輩の子から頼まれてさ。だから、2つは紫藤宛てで間違いないよ。羽崎宛てじゃなくて」
「え!? なんで俺!?」
斗織はいつの間にか復活していたらしい。俺に視線を合わせると、「だから言っただろう」と言いたげにちょっと眉を動かした。
「紫藤、1年の間じゃ結構有名らしいよ。ふわふわしてて可愛くて、天使みたいな先輩がいるって」
「天使って…」
1年生、しーくんみたいなあほの子がいっぱいいるんだな……。
そんな事を考えていると、すぐ近くからチッと舌打ちが聞こえてくる。
「そいつらに、遼は俺の天使だからちょっかい掛けんなって伝えとけよ」
ふわっ…ふわわわっ…!
斗織が俺のこと、俺の天使だって……!!
すごい! 俺、斗織の天使なんだって!
うれしいっ!!
「………あぁ…そうだね、うん……、伝えとく」
斗織の独占欲剥き出しのセリフに、彼女は多少ほっぺをひくつかせながらも頷いてくれた。
あ~っ、それにしても「俺の天使」なんてさ!
早くふたりっきりになりたいよ、俺の王子様!
早くイチャイチャしたい~~っ!
「ま、2人ともイベント事楽しみたかっただけで、恋人いるってのも話しといたからさ、余計なことしてこないと思う。取り敢えず貰っといてやって」
どうしてだか俺を見て苦笑した彼女は、後輩を気遣ってかそう頭を下げる。
なんだか姉御って感じで格好いい。
「うん、わかった。ありがとう」
「ん。じゃ」
お礼を言うと、姉御は片手を上げて颯爽と去っていった。仕草がなんだか男前だ。
「なんで礼とか言ってんだテメェは……」
唸るような低い声。
こっちの男前は、颯爽としてないな。どうやらご機嫌斜めみたい。
「なに怒ってるの。斗織が怒ってると、遼ちゃん悲しくて泣いちゃうよ?」
ほっぺたを両手で挟んで目を合わせると、斗織は俺を見つめ返して、親指の腹で目尻をぐいっと擦った。
まだ泣いてないのに、もっと言えば本当は泣いたりしないのに、心配性。
徐ろに顔を傾けると顔を近づけようとして、……さっきの姉御の『イチャイチャが止まらなくて』って言葉を思い出したのか、唇が触れる前に離れていく。
そして、勝手に借りて座ってた中山の椅子の上、仰け反るとはぁー…と大きく息を吐いた。
「……で結局、どうすりゃいんだよコレ……」
「職員室へ行きましょう」
「職員室……?」
見上げた先には今度こそ、変態メガネ紳士さまの爽やかな笑顔があった。
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